著者
志村 結美 斉藤 秀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.26, 2010

<B>目的</B><BR><BR> 現代の子どもたちは、生活実感すなわち、生活を自らのものとして具体的に捉える力が欠如し、自らの生活に関心が薄いと言われている。このような子どもたちの現状に対し、家庭科教育は、日常生活の営みである生活文化に目を向け、その歴史あるいは先人の知恵や技術を理解し主体的に生活を捉えることで、新たな生活文化を創造し、生活をより豊かにしようとする心を育むという役割を担っている。特に、学習指導要領の改訂(2008・2009)において、伝統と文化に関する教育の充実が謳われている現在、家庭科教育も果たすべき役割は大きいと言えよう。<BR> そこで本研究では山梨県の児童・生徒を対象に、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた、地域の伝統産業と連携した家庭科の教育プログラムの開発を行うこととした。本プログラムの開発には、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、教育機関が一体となった産官学が連携して携わっており、甲斐絹の商業的展開の発展をも目指している。もちろん、教育プログラムとしても児童・生徒が現実的に甲斐絹の発展や継承について捉え、より具体的に地域、日本の伝統や文化を継承していくことの意義を認識し、実践的な態度を育成することができるため、有効である。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる経験ができ、さらにはプログラム全体を通して自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考える。本報告では、Y大学附属中学校で試行的に実践した家庭科の実験的研究授業を分析・検討し、山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムのあり方を探ることとする。<BR> <BR><B>方法</B><BR><BR> 実験的研究授業は、Y大学附属中学校3年生1クラス40名を対象に、2010年1月13日、20日の各1時間、計2時間実施した。授業前後のアンケート、授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ポケットティッシュケース)等を分析対象とした。<BR><BR><B>結果及び考察</B><BR><BR> 実験的研究授業の第1次では、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品を紹介しながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹の現状等の講義を行った。その講義を踏まえて、地域の伝統と文化の意義を理解し、実践的に継承していくための方策をグループで話し合い、発表した。第2次では、甲斐絹の素晴らしさを実感できる小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。<BR> 授業の分析の結果、伝統と文化等に関する学習への興味・関心は、学習後に有意に高くなり、特に衣文化に関して、食文化と同様に9割以上の生徒が興味・関心があると答えている。また、甲斐絹を使った小物製作については、学習前に3割の生徒が否定的に捉えていたが、学習後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹座による講義や、甲斐絹の色、光沢、手触りの素晴らしさに触れ、しっかりとした製品を創り上げたいという意欲がわいたためと推測される。性別による比較では、学習前は女子の方が意欲・関心が高い傾向が見られたが、学習後には有意な差が認められなくなり、男女ともに興味・関心を高めながら、その差を縮める結果となった。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としては、マスコミの活用や本授業のような体感する機会の増加、その他、具体的な商品開発のアイディア等が積極的に述べられた。また、自らが伝統と文化に興味・関心を持ち、学び、伝えていく意義、甲斐絹を含めた地域や日本の伝統と文化に対する誇り等の自由記述も認められた。<BR> 今後の課題として、短時間で完成する小物の開発、小・中・高校と発達段階に即した教育プログラムの開発、小物製作キット等の作成等があげられ、今後も教育現場で活用できる教育プログラムの開発の検討を行う予定である。

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