著者
薩本 弥生 丸田 直美 斉藤 秀子 諸岡 晴美
出版者
一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
雑誌
繊維製品消費科学 (ISSN:00372072)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.80-89, 2017-01-25 (Released:2017-01-27)
参考文献数
9

ブラジャー着装時のズレ防止や防振性の観点から,動作時の胸部動態や着装感に年齢・身体特性・ブラの種類が及ぼす効果を明らかにするために以下の実験を行った.被験者は若年群9 名(19-22 歳),中年群6 名(40-62 歳)を対象とした.胸部の身体特性を明らかにするため三次元画像解析による身体形状,胸部圧縮変形量,超音波画像診断による脂肪厚,衣服圧を計測した.振動やズレを計測するためにハイスピードカメラによる三次元動作解析を行った.ブラの着装条件は,補整ブラのワイヤ有とワイヤ無,スポーツブラ,ノーブラの4 種,運動は前方挙上(180˚)である.ハイスピードカメラによる三次元動作解析により動作時の乳頭点では,補整ブラよりスポーツブラの振動抑制効果が高く,中年群は若年群より振動が大きくブラによる差が小さいこと,中年群では脂肪厚が厚くカップサイズが大きい人ほど振動もズレも大きいこと,若年群では胸部の圧縮変形量が小さい人ほど振動が小さいことが明らかとなった.動作時の衣服圧は乳頭位とサイドパネルではスポーツブラが補整ブラよりも有意に小さいが,下部胸囲では逆だった.動作後の着装感評価でズレ感は振動感および快適感に相関があった.動作時には適度に下部胸囲位を圧迫したブラは振動やズレを抑えるため快適と感じると考えられる.
著者
與儀 由香里 呑山 委佐子 斉藤 秀子
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学家政系研究紀要 (ISSN:1346860X)
巻号頁・発行日
no.47, pp.145-160, 2011-03-03

サーマルマネキン立位を用いて、コート7点、レギンス3点、レッグウォーマー2点、ネックウォーマー3点及び巻き方の違いによるショールの熱抵抗の測定を行い、ウォームビズに対応する着方について検討した。主な結果は次の通りである。 1.単品コートの有効熱抵抗は、0.976~+S410+S41389cloの範囲に分布し、総重量(γ=0.763*)と厚さ(γ=0.944**)との間に有意な相関があった。2.単品レギンスの有効熱抵抗は0.082~0.019cloの範囲に分布に総重量(γ=0.817)との間に相関があった。3.単品ネックウォーマーの有効熱抵抗は0.001~0.005cloの範囲に分布した。4.重ね着の場合、単品衣服の和との関係は、コートで29.9%減少、レギンスで14.9%減少、ネックウォーマーで9.4%の減少が見られた。5.先の実験で用いた肌着、靴下、ショール、ベスト、手袋、帽子に今回のコート、レギンス、ネックウォーマーを加えた過剰重ね着の結果は、重ね着によるclo値は単純加算のclo値より39.6%も減少し、重ね着過剰の弊害が示された。6.ショールの巻き方の違いによるclo値は、被覆面積を大きくすることが、clo値を上昇させるという結果であった。
著者
斉藤 秀子 瀬戸 瑠美 薩本 弥生 丸田 直美 呑山 委佐子 斉藤 秀子 瀬戸 瑠美 薩本 弥生 丸田 直美 呑山 委佐子 SAITO Hideko SETO Rumi SATSUMOTO Yayoi MARUTA Naomi NOMIYAMA Isako サイトウ ヒデコ Saito Hideko セト ルミ Seto Rumi サツモト ヤヨイ Satumoto Yayoi マルタ ナオミ Maruta Naomi ノミヤマ イサコ Nomiyama Isako
出版者
山梨県立大学
雑誌
山梨県立大学人間福祉学部紀要 Bulletin of Faculty of Human and Social Services, Yamanashi Prefectural University (ISSN:21874344)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-10, 2018

美容医療の苦情は1997年から増加の傾向にあり、女性の美意識に関連した大きなビジネスが発展するとともに問題も生じているといえる。そこで、女性の美意識に関連する行動である女性の化粧、補整下着の着用、美容外科についてその意識を分析し、女子短大生の実態を明らかにしようと試みた。アンケート調査は2005年に短期大学生を対象として実施した。その結果、短大生は自分の身体に対して否定的な意識を持ち、現在使用している化粧、補整下着は限定されているが、今後、しみやたるみ、しわには化粧品を使用し美容外科の治療をしたい、補整下着であるガードルやボディスーツ、ハイヒールを利用したいと考えていることが明らかとなった。
著者
土橋 由紀 志村 結美 斉藤 秀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.99, 2011

<BR>【目的】 グローバル化する社会の中で、国や環境の異なる人を理解し、共に生活していくためには、自分の国や地域の伝統や文化についての理解を深め、尊重する態度を身に付けることが重要である。高等学校家庭科の学習指導要領(2009)では、高校生が家庭や地域の生活を主体的に創造していく主体として、生活文化の伝承と創造を担う必要性が述べられ、伝統と文化に関する教育の充実が求められている。<BR>そこで本研究では、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた地域の伝統産業と連携した家庭科の授業開発を行い、検討を行うこととした。本研究は、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、小・中・高・大学といった教育機関の三者、すなわち産官学が連携し、甲斐絹の伝承と発信をめざしたプロジェクトの一環として行われている。本研究を通して、児童・生徒が具体的に地域や日本の伝統、生活文化を把握し、継承していくことの意義を認識するとともに、継承、発展させていくための実践的な態度の育成を図ることを目指している。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる体験ができ、さらには、自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考えている。<BR>本報告では、甲斐絹の生産地である山梨県郡内地域にある山梨県立F高等学校において実施した家庭科の授業実践を分析・検討し、今後の教育プログラムの開発の一考とすることを目的とする。<BR>【方法】 山梨県立F高等学校1学年7クラス約280名を対象に、家庭科(家庭基礎)において、2011年2月に各2時間授業実践を行った。授業前後のアンケートや授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ティッシュケース)等を分析対象とした。<BR><BR>【結果及び考察】 第1次の授業は、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品の紹介をしながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹復元への想い等の講義を行い、地域の伝統や文化の伝承の意義等について生徒の認識を高める授業展開とした。第2次では、手縫いによる甲斐絹の小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。<BR>分析の結果、授業後には伝統と生活文化を後世に伝えていく活動について意欲的に参加したいとの回答が有意に多くなり、自由記述の中にも甲斐絹を自らが伝えていきたいと考える意見が多くみられた。授業後には、食文化・衣文化・住文化のいずれに関しても興味・関心が高くなり、さらに、ものづくりに興味・関心を持った生徒も多くなっていた。<BR>また、第1次の甲斐絹座メンバーによる講義後の感想では、地域の伝統文化への誇りに関する記述が多く認められた。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としても、甲斐絹の商品開発や商品販売、マスコミの活用等、積極的な回答が多く認められ、地域の伝統産業である甲斐絹についてより身近に、具体的に捉えることができたと考えられる。<BR>甲斐絹を使った小物製作については、事前には4割の生徒が否定的に捉えていたが、事後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹の特徴である手触りや高級感を感じることができたためと推測される。しかし、手縫いでは縫いづらいという意見も多く認められ、実際、甲斐絹は手触りが良い分、手縫いでは滑りがあり上手に縫い合わせることができない生徒が多くみられた。また、ほつれやすく、縫ったところからほどけてしまう様子も見受けられた。<BR>そこで今後の課題として、小物製作の実習として、手縫いによる基礎的裁縫技術の習得を含め、学習後、日常生活でより活用できるものとして、ミシンを利用した小物製作を行うことを検討している。また、小・中・高校と発達段階に即した山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムの開発・検討を行う予定である。<BR>
著者
志村 結美 斉藤 秀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.26, 2010

<B>目的</B><BR><BR> 現代の子どもたちは、生活実感すなわち、生活を自らのものとして具体的に捉える力が欠如し、自らの生活に関心が薄いと言われている。このような子どもたちの現状に対し、家庭科教育は、日常生活の営みである生活文化に目を向け、その歴史あるいは先人の知恵や技術を理解し主体的に生活を捉えることで、新たな生活文化を創造し、生活をより豊かにしようとする心を育むという役割を担っている。特に、学習指導要領の改訂(2008・2009)において、伝統と文化に関する教育の充実が謳われている現在、家庭科教育も果たすべき役割は大きいと言えよう。<BR> そこで本研究では山梨県の児童・生徒を対象に、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた、地域の伝統産業と連携した家庭科の教育プログラムの開発を行うこととした。本プログラムの開発には、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、教育機関が一体となった産官学が連携して携わっており、甲斐絹の商業的展開の発展をも目指している。もちろん、教育プログラムとしても児童・生徒が現実的に甲斐絹の発展や継承について捉え、より具体的に地域、日本の伝統や文化を継承していくことの意義を認識し、実践的な態度を育成することができるため、有効である。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる経験ができ、さらにはプログラム全体を通して自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考える。本報告では、Y大学附属中学校で試行的に実践した家庭科の実験的研究授業を分析・検討し、山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムのあり方を探ることとする。<BR> <BR><B>方法</B><BR><BR> 実験的研究授業は、Y大学附属中学校3年生1クラス40名を対象に、2010年1月13日、20日の各1時間、計2時間実施した。授業前後のアンケート、授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ポケットティッシュケース)等を分析対象とした。<BR><BR><B>結果及び考察</B><BR><BR> 実験的研究授業の第1次では、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品を紹介しながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹の現状等の講義を行った。その講義を踏まえて、地域の伝統と文化の意義を理解し、実践的に継承していくための方策をグループで話し合い、発表した。第2次では、甲斐絹の素晴らしさを実感できる小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。<BR> 授業の分析の結果、伝統と文化等に関する学習への興味・関心は、学習後に有意に高くなり、特に衣文化に関して、食文化と同様に9割以上の生徒が興味・関心があると答えている。また、甲斐絹を使った小物製作については、学習前に3割の生徒が否定的に捉えていたが、学習後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹座による講義や、甲斐絹の色、光沢、手触りの素晴らしさに触れ、しっかりとした製品を創り上げたいという意欲がわいたためと推測される。性別による比較では、学習前は女子の方が意欲・関心が高い傾向が見られたが、学習後には有意な差が認められなくなり、男女ともに興味・関心を高めながら、その差を縮める結果となった。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としては、マスコミの活用や本授業のような体感する機会の増加、その他、具体的な商品開発のアイディア等が積極的に述べられた。また、自らが伝統と文化に興味・関心を持ち、学び、伝えていく意義、甲斐絹を含めた地域や日本の伝統と文化に対する誇り等の自由記述も認められた。<BR> 今後の課題として、短時間で完成する小物の開発、小・中・高校と発達段階に即した教育プログラムの開発、小物製作キット等の作成等があげられ、今後も教育現場で活用できる教育プログラムの開発の検討を行う予定である。
著者
呑山 委佐子 斉藤 秀子 與儀 由香里 呑山 委佐子 斉藤 秀子 與儀 由香里 NOMIYAMA Isako SAITO Hideko YOGI Yukari ノミヤマ イサコ Nomiyama Isako サイトウ ヒデコ Saito Hideko ヨギ ユカリ Yogi Yukari
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学 家政系研究紀要
巻号頁・発行日
vol.44, pp.75-91, 2008

高齢者社会へのメッセージ展PartⅣで高齢者用寝衣と留め具のいろいろ等について展示発表した。また、坂本モデル製M100-5小春さん(こはる)を対象に一般のパジャマ、工夫パジャマ2種の着脱介助の過程を観察し、検討した。結果は以下のようである。1)高齢者用寝衣については、見学者の高い関心が示され、高齢者の特性を考え設計した、オーガニック木綿製の手作りパジャマが好評であった。 2)介護用パジャマについては、本学の学生たちに被服全般や、要介護に対する衣服への工夫やアイディアの必要性が理解され、高齢者への経緯や思いやりの気持ちの涵養の一助となった。 3)高齢者体験用手袋で留め具の開閉をした結果②自由に動くボタン、④ブーメラン形のボタン、⑤封筒の留め具感覚の2~3mmのひも使い⑧ドットボタンがやりやすいという意見が多かった。 4)着脱介助の場合、マジックテープまたはファスナーをつけることにより平面形状に展開してから着衣する工夫パジャマは、一般のパジャマより側臥への姿勢転換回数が顕著に減少し、介護者の負担を軽減することが示唆された。At the Exhibition of Messages to an Aging Society Part Ⅳ, various products such as sleepwear and fasteners for the elderly were exhibited. Also, Sakamoto Model's M100-5 Koharu-san was used to observe the process of helping to dress and undress, using general pajamas and 2 types of special pajamas. The results of our investigation are as follows. 1) Observes showed strong interest in elderly sleepwear, with favorable evaluation of organic cotton handmade pajamas designed with characteristics of the elderly in mined. 2) This school's students understood the necessity of ideas for general pajamas and pajamas for the for people that require assistance. It helped to foster feelings of repect and consideration toward the elderly. 3) As a result of trying to open and close fasteners while wearing elderly exexperiential gloves, many throught that these buttons were easy to use : (2) Freely moving buttons, (4) Boomerang type buttuns, (5) Threaded buttuns like those used to close envelopes, (8) Dot buttuns. 4) When aiding undressing, special pajamas required dramatically fewer changes of body position than for general pajamas, suggesting less burden on the care giver.
著者
小林 由実 川端 博子 薩本 弥生 斉藤 秀子 呑山 委佐子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

【目的】 伝統的・文化的な技術や習慣が伝承されにくく、関心も低くなっている中、2008年改訂の中学校学習指導要領の家庭・被服領域において「和服の基本的な着装を扱うこともできる」が明記された。しかし、教師自身の知識・技能が十分でない、教材の確保が困難といった理由から、和服に関する授業の実践例はまだ少ない。この様な現状をふまえ、ゆかたの着装を含む体験的学習を通してきもの文化を次世代に継承する家庭科の教育プログラムを開発し、その学習効果を検証することを目的とする。【授業実践】 本研究では、埼玉大学教育学部附属中学校(2年生4クラス173名)の協力を得て、2011年5月から4週にわたり50分授業を4回実施した。授業は、和服の基礎的内容の学習にはじまり、たたむ、帯を結ぶ、ゆかたを着装する体験学習へと、段階的に進めた。着装技能/ゆかた着装時の気持ち/ゆかたへの興味・関心の視点に関するアンケートと授業ごとの感想をもとに、授業の効果を考察した。【結果と考察】 着装技能の評価 ゆかたの着装技能について、「帯の結び方」等の3項目について8~9割の生徒が理解できたと感じていた。また、写真によるゆかた着装の生徒の自己評価では、「背中心がまっすぐである」等の全ての個別評価と、総合評価「外出できる出来ばえになっている」で有意な相関がみられた。「えり」「すそ」の評価項目では男女とも相関が比較的高い傾向となり、出来ばえに関連する要素とみなされる。男子においては「帯の形が整っている」の相関が最も高く、着付けにおいて帯結びの美しさが総合的な出来ばえに及ぼす影響は大きい。また、教師が同様の評価を行ったところ、5項目について自己評価と教師評価の間に有意な相関がみられた。特に帯に関する項目で、生徒と教師の評価基準が一致する傾向となった。 モデルのゆかた着装時における気持ち ゆかたの着付け体験は2~3人のグループ活動とし、そのうちの一人をモデルとした。授業の前後にモデルを対象にゆかた着装時の気持ちを評価させたところ、「うれしかった」等のゆかたのよさに関する5項目については、全てで高まった。「帯がきつかった」「歩きにくかった」の否定的な2項目においては授業後にはあまり変化せず、比較的低くとどまった。 ゆかたへの興味・関心 授業の前後に、ゆかたへの興味・関心(7項目)を評価させ比較したところ、男女ともに全ての項目で興味・関心が大きく向上した。事後調査においては、「和服について関心がもてた」等の項目で全体の約8割が「(やや)そう思う」と回答した。また、「家族と和服の話をした」の項目では全体の52%が「はい」と回答したことから、授業を通して生徒にきもの文化の継承に関わるきっかけを与えられたと考える。 自由記述の分析 授業後の感想を観点別に分析したところ、帯結びの体験では「帯の形」「長さ調節」「きつさ」が、着付け体験においては、「帯」「おはしょり」が困難な点として最も多く挙げられていた。これらの記述を参考に、要点をおさえた、より簡潔でわかりやすい指導につなげていくことが課題である。
著者
薩本 弥生 川端 博子 堀内 かおる 扇澤 美千子 斉藤 秀子 呑山 委佐子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

[目的] 現在の衣生活は、旧来の家庭で衣服を作る時代から、既製服を選んで購入する時代となった。日常着が洋装化し、既製服が普及した今日、きもの文化に触れる機会もめっきり減り、これらの技術や文化が若者に理解されにくくなりつつある。一方で、2006年に改正された教育基本法に「伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が新たな教育の目標として規定されたことを受けて、新指導要領が2008年に告示され、中学校の技術・家庭科の衣生活分野では「和服の基本的な着装を扱うこともできること」が盛り込まれたため、和服の着装の体験を含めた教育プログラムを模索することは必要不可欠である。そこで本研究では、和服の中でももっともカジュアルで取り組みやすいゆかたの着装を含む体験的学習を通し、きもの文化を次世代に継承する家庭科の教育プログラムを開発し、その学習効果の検証することを目標とし、特に浴衣の着装実習において大学教育学部で事前に浴衣の着装指導に関してトレーニングを積んだアシスタントティーチャーを活用して技能の理解・習得に力点を置いた授業実践を試行的に行い、技能の理解・習得を目標に着装体験することがきもの文化への興味・関心を喚起するかを明らかにすることを目的とする。 [方法]2011年6月から9月に、Y大学附属K中学校において、家庭分野担当教員の協力を得て教育実習の一環で大学の実習生が2年生4クラスを対象とした浴衣を教材とした3時間(50分×3)の授業を実施した。実習直後および夏休み明け(事後)に着装感や技能習得意識に関する項目(23項目)について5件法で調査を実施した。23項目の直後・事後調査のデータがそろっている4クラス分の男女生徒159部(90.9%)を対象として、分析結果から得られた内容をもとに、授業の成果と生徒の意識変容について考察する。 [結果と考察] (1)因子分析によって抽出された全5因子を相関分析した結果、「興味関心因子」と「理解習得因子」に高い相関があることがわかった。(2)共分散構造分析の結果、「理解習得因子」から「興味関心因子」へのパス係数が有意であった。このことから「技能の理解・習得を目標に着装体験することがきもの文化への興味・関心を喚起する」という仮説が成り立つことが立証された。さらに男女による差異、帯結び部分練習の有無による差異を検討した結果、有意に差が見られた。以上の結果から、男女でのゆかたの色柄の違いや着付けの難易度の違いがある中で男女ともに、きもの文化に対する興味関心や理解習得を肯定的にとらえるために授業のさらなる工夫の必要性が明らかになった。着付け技能の理解・習得をめざした授業作りのために部分練習をすると理解習得意識が高まり、それが興味関心喚起に結びつくことがわかった。授業時間数が縮小傾向の中での時間数の確保が課題である。[まとめ]これまでの実践を通して教師自身の「きもの」文化に関わる意識啓発と知識・技能の力量形成が重要であることが明らかとなってきたので、大学で着付けの技能を中心に「きもの」文化に対する意識啓発と技能習得のためのトレーニングを積んだ学生をATとして活用したのが本研究の特徴である。ATの活用により教員に余裕が生じ、生徒への示範や指導が行き届き、授業が円滑に進行し、着装技能の理解や習得意識が向上し、きもの文化に対する興味関心の喚起にも有効であることが明らかになった。附属学校という地域のリーダー的な実践校での実践であり、設備や教材などの学習環境、教師の実践力向上に向けての周りの支援、さらに生徒の質の高さ等々が整っているため出来た実践という面はある。しかし、一般校でも、地域か、保護者の協力を仰ぐ体制づくりを整えて行くことで可能となると思う。