- 著者
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槌野 正裕
荒川 広宣
中島 みどり
山下 佳代
高野 正太
高野 正博
- 出版者
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会
- 雑誌
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.21, 2009
【背景】<BR> アブラハム・マズローは,人間の基本的欲求を低次元から,1.生理的欲求,2.安全欲求,3.愛情欲求,4.尊敬欲求,5.自己実現欲求と5段階に分類している.生きていくうえで欠かすことの出来ない生理的欲求には,食欲,性欲,睡眠欲,排泄欲などが含まれている.リハビリテーション医療分野では,排泄欲に対する機能訓練は皆無である.当院は大腸肛門病を専門に扱っており,理学療法士は大腸癌術後の離床促進による呼吸器合併症予防と,排泄の機能障害に対しての直腸肛門機能訓練を行っている.<BR> 今回,直腸肛門機能障害に対して取り組んだ,物理療法機器を用いての治療を報告する.なお,症例には当院倫理指針に則り患者への同意を得ている.<BR>【症例紹介】<BR> 症例は,60代,男性,排便時出血と肛門痛を主訴として来院.直腸肛門機能検査では,外肛門括約筋筋電図収縮力(S/R)1.5,その他問題なし.外肛門括約筋の収縮に対するバイオフィードバック療法を実施したが,筋の単独収縮が出来ず,主治医より治療を依頼された.括約筋を収縮させようとしてもS/Rに変化は無く,逆に息むような奇異収縮を認めた.腰仙椎MRI画像では腰椎の過度な前彎と,代償的な骨盤後傾を認めた.<BR>【治療方法と経過】<BR> まず,骨盤帯の前傾を促すため,骨盤前後傾運動を指導した.骨盤帯の運動が可能となってからは,米国Chattanooga社製,Intelect Advance Combo 2762ccを用い,電流は筋電図誘発電気刺激(Electromyography-Triggered Neuromuscular Stimulation:ETMS)を使用した.電極パットを尾骨先端の肛門縁とS2~4仙骨部に貼付し,アースを臀部に貼付した.最初の訓練姿勢は左下側臥位で,骨盤帯は前傾位とした.治療開始4週間を経過した時点で括約筋の収縮は出来るようになってきたが,弛緩が上手く出来なかった.6週後,外肛門括約筋の収縮と弛緩をコントロール出来るようになった.収縮方法を学習したので,抗重力位での訓練方法を指導し,更に動的な訓練を行った.退院時S/R比は2.6へ上昇し,肛門痛も軽快した.<BR>【考察】<BR> 大腸肛門の専門病院として,直腸肛門機能障害に対するバイオフィードバック療法を行っているが,視覚を用いたフィードバックのみでは患者自身の感覚の理解が得がたい症例に対して,感覚と視覚を利用した治療を行った.外肛門括約筋は収縮しても目に見えないため,視覚を用いたバイオフィードバック療法は有効な治療手段である.しかし,感覚入力も同時に行うことで収縮感覚を理解し易くなったことが考えられる.また,訓練姿勢に関しても以前の研究結果を基に骨盤帯を軽度前傾位へ誘導して取り組んだ.外肛門括約筋を含む骨盤底筋群が筋収縮を行いやすいアライメントに調整したことが治療効果を高めたと考える.