著者
花村 俊吉
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.21, pp.12, 2005

ニホンザルの群れにいるオスは、群れを構成する多くの個体から離れているオス(周辺にいるオス)と、多くの個体の近くにいるオス(中心にいるオス)とに分化して観察されることが知られている。また、このオスの空間的位置は移行する。しかし、その分化機構や移行過程はよく分かっていない。本研究では、他個体との相互行為の積み重ねとしてオスの空間的位置の差異が観察されると考え、オスが他個体から離れることになる逃避、他個体の近くにいることになる近接に着目し、(1)周辺にいるオスがよく逃避しているかどうか、(2)オスの逃避の発端となる他個体の性、(3)オスの逃避に関わる他個体との相互行為、(4)オスの逃避の発端とならない他個体とその近接について検討した。<br> 2004年2月から8月までの7ヶ月間、嵐山モンキーパークいわたやまのニホンザル餌づけ群のうち、10才以上のオトナオス9頭を対象に個体追跡を行い、逃避、近接、攻撃などの他個体との相互行為、およびオスの空間的位置を記録した。空間的位置は、個体追跡中の瞬間サンプリングによって得た視界内の個体数などによって評価した。<br> その結果、よく逃避するオスとほとんど逃避しないオスがおり、(1)周辺にいるオスは中心にいるオスより頻繁に逃避し、(2)そのほとんどはメスとの相互行為が発端となって生じていた。その際、(3)メスの悲鳴によって第3者に攻撃されることがあり、こういった状況をもたらし得るメスから逃避していることが示唆された。また、(4)周辺にいるオスでも、毛づくろいや長時間近接をするメスからは逃避せず、それらのメスとの近接時には逃避頻度が低くなる傾向があり、特定のメスとの近接によってオスの空間的位置の移行が促される可能性が示唆された。したがって、オスの空間的位置にはメスとの社会関係が強く影響していると考えられる。また、観察可能なニホンザルの群れという境界についての再検討が要求される。

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