- 著者
-
榎本 知郎
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.25, pp.49, 2009
霊長類の卵管は腹腔から子宮へ続く管系だが,機能も構成も異なる峡部と膨大部の二部分に分かれている。その構造の進化的意義について考察した。ヒトの性行動の研究から,1.女性は,排卵前の妊娠確率の高い数日間に夫とセックスしたあとで愛人ともセックスする傾向がある,2.愛人とのセックスの時オーガズムを経験する傾向がある,3.女性は,オーガズムの反応で夫の精子を子宮から掻き出し,愛人の精子を吸いこむ,4.女性は,一日のうち夫と離れている時間が長ければ長いほど浮気をする頻度が高くなる,5.夫は,一日のうち妻と離れている時間が長ければ長いほど,セックスした時多数の精子を射精する,と主張される。つまり,精子競争が認められるということである。また,受精のしくみは,1.吸引された精子は子宮の粘液の海を泳いで子宮の左右にある卵管峡部に到達する,2.卵管峡部の上皮細胞は精子をつなぎ止め,栄養を与えて生かし,授精能を与え,夫と愛人の精子がここで待機し,排卵すると精子はいっせいに放たれる,3.精子たちは広大な表面積をもつ卵管膨大部の粘膜を泳いでたったひとつしかない卵子を探し求める,4.卵子は透明帯と放線冠によってバリアーを構築しており,これを突破して授精するには多くの精子の共同作業が必要となる。これらのことから,以下のふたつの仮説が考えられよう。仮説1=ヒトの卵管膨大部と放線冠は,元気の良い精子を多数送り込めるオスを選ぶべく進化した。仮説2=ヒトの卵管峡部は精子競争をすすめるよう進化した。