著者
榎本 知郎
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第23回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.61, 2007 (Released:2009-05-30)

性行動 sexual behavior は、行動生態学に基づく仮説の検証に分析されることが多い。しかし、しばしば生殖行動と混同され、繁殖成功に結びつくとの解釈が見られる。これは、霊長類の「性」を精査せずに一般化し生殖に結びつけたバイアスであるように思われる。霊長類における性行動の研究をヒトの性にまつわる行動の解釈に結びつけるためには、定義を見直す必用があるだろう。そこでわたしは以下のような定義を提言したい。 (1) 生殖行動 Reproductive behavior:生殖のための行動で、受精をもたらす。多くのサルで、排卵しないときにも性行動が観察されるので、生殖行動は性行動に内包される。 (2) 性行動 Sexual behavior: 性行動とは、陰茎を腟に挿入する交尾行動 coitus or copulation を指す。誘い行動 solicitation など交尾の前後に見られるやりとりも分析の対象になる。 (3) 恋愛行動 love behavior: オトナの異性間で「抱擁」「キス」「愛撫」などの親和的接触行動の少なくともひとつが見られる一連のやりとり。性行動とは別のカテゴリーで、互いに他を包含する関係にない。 (4) 結婚 marriage: 社会的に規定されるオス・メス関係で、行動学的な分析になじまない。
著者
榎本 知郎 花本 秀子 長戸 康和 松林 清明
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ヒトを含む霊長類における精子競争の様相を組織学的に探る試みを行った。ゴリラ(N=11)、チンパンジー(11)、オランウータン(6)、ヒト(6)の精巣標本を、オトナの死亡個体から採取した。HE、PAS-ヘマトキシリンで染色したほか、テストステロン免疫染色も行った。その結果、ゴリラは、(1)11個体中6個体で精子形成がみとめられないこと、(2)精子形成が認められる精巣でも、間質が非信に豊富であること、(3)いずれもテストステロン染色によく染まるライディヒ細胞が非常に多く認められた。チンパンジーでは(1)精上皮が非常に厚く、各段階の精子形成細胞が多数あり、成熟期の精子細胞も豊富で、精子形成が非常に活発であること、(2)間質は疎でライディヒ細胞が少ないこと、またオランウータンでは、(1)精子形成は比較的活発であること、(2)間質もかなり豊富であること、(3)精子細胞の先体が大きいこと、などが明らかになった。ゴリラ(N=11)、チンパンジー(N=5)、オランウータン(N=4)、ヒト(N=1)の精巣標本について、精子発生指数(SI)と:減数分裂指数(MI)を算定した。ゴリラ11頭の平均SIは、チンパンジー、オランウータンより有意に低かった(マン-ウィットニー検定)。また、ゴリラの平均MIは、チンパンジー、オランウータンより、有意に低い値を示した。ゴリラは、チンパンジーの40分の1、オランウータンの8分の1の精子しか産生しておらず、またヒトは、ゴリラの6倍、チンパンジーの7分の1の精子を産生していると推定された。
著者
榎本 知郎 中野 まゆみ 花本 秀子 松林 清明 楠 比呂志
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第20回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.119, 2004 (Released:2005-06-30)

ゴリラの繁殖が難しいことはよく知られているが、その原因の詳細は不明である。そこでわれわれは、ゴリラの精子形成の特性を組織学的に分析してきた。今回は、その続報である。飼育下で死亡したゴリラ10頭から精巣を採取し、通常の組織標本を作製した。これを光学顕微鏡で観察した。前回、10頭のうち4頭でのみ精子形成が認められること、精上皮が薄いこと、退縮した精細管が存在すること、異常巨大細胞が存在すること、の4点で精子形成が不活発であることを報告した。今回は、以下の3点について報告したい。 (1) ゴリラの精上皮サイクルは、6ステージにわけることができた。 (2) 精細胞表面に形成されるアクロゾーム(先体)が非常に小さかった。 (3) チンパンジーやオランウータンに比べて、精上皮からの精子放出の直前のステージ(ステージII)における成熟精子の密度が小さかった。精上皮サイクルは、オナガザル上科のサルでは、12~14ステージに分けられる。これに対し、ヒト、ゴリラ、チンパンジーでは、6ステージにしか分けられない。このステージ分けは、精上皮の細胞構築をていねいに分析することによって得られるもので、オナガザル科のサルの場合、減数分裂直後の精細胞が、アクロゾームシステムの形によって数ステージに分けられるため、ステージ分けも詳細になる。これに対し、ゴリラの場合、アクロゾームがきわめて貧弱で小さいうえに、各細胞におけるその変容が完全に同期しておらず、ステージ分けを難しいものにしている。アクロゾームは、受精の際、卵を取り巻く放線冠を溶かす酵素など、数種の成分を含んでいる。これの少ないことが、ゴリラの繁殖を難しいものにするひとつの要因なのかもしれない。
著者
榎本 知郎
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.25, pp.49, 2009

霊長類の卵管は腹腔から子宮へ続く管系だが,機能も構成も異なる峡部と膨大部の二部分に分かれている。その構造の進化的意義について考察した。ヒトの性行動の研究から,1.女性は,排卵前の妊娠確率の高い数日間に夫とセックスしたあとで愛人ともセックスする傾向がある,2.愛人とのセックスの時オーガズムを経験する傾向がある,3.女性は,オーガズムの反応で夫の精子を子宮から掻き出し,愛人の精子を吸いこむ,4.女性は,一日のうち夫と離れている時間が長ければ長いほど浮気をする頻度が高くなる,5.夫は,一日のうち妻と離れている時間が長ければ長いほど,セックスした時多数の精子を射精する,と主張される。つまり,精子競争が認められるということである。また,受精のしくみは,1.吸引された精子は子宮の粘液の海を泳いで子宮の左右にある卵管峡部に到達する,2.卵管峡部の上皮細胞は精子をつなぎ止め,栄養を与えて生かし,授精能を与え,夫と愛人の精子がここで待機し,排卵すると精子はいっせいに放たれる,3.精子たちは広大な表面積をもつ卵管膨大部の粘膜を泳いでたったひとつしかない卵子を探し求める,4.卵子は透明帯と放線冠によってバリアーを構築しており,これを突破して授精するには多くの精子の共同作業が必要となる。これらのことから,以下のふたつの仮説が考えられよう。仮説1=ヒトの卵管膨大部と放線冠は,元気の良い精子を多数送り込めるオスを選ぶべく進化した。仮説2=ヒトの卵管峡部は精子競争をすすめるよう進化した。
著者
榎本 知郎
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第25回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.49, 2009 (Released:2010-06-17)

霊長類の卵管は腹腔から子宮へ続く管系だが,機能も構成も異なる峡部と膨大部の二部分に分かれている。その構造の進化的意義について考察した。ヒトの性行動の研究から,1.女性は,排卵前の妊娠確率の高い数日間に夫とセックスしたあとで愛人ともセックスする傾向がある,2.愛人とのセックスの時オーガズムを経験する傾向がある,3.女性は,オーガズムの反応で夫の精子を子宮から掻き出し,愛人の精子を吸いこむ,4.女性は,一日のうち夫と離れている時間が長ければ長いほど浮気をする頻度が高くなる,5.夫は,一日のうち妻と離れている時間が長ければ長いほど,セックスした時多数の精子を射精する,と主張される。つまり,精子競争が認められるということである。また,受精のしくみは,1.吸引された精子は子宮の粘液の海を泳いで子宮の左右にある卵管峡部に到達する,2.卵管峡部の上皮細胞は精子をつなぎ止め,栄養を与えて生かし,授精能を与え,夫と愛人の精子がここで待機し,排卵すると精子はいっせいに放たれる,3.精子たちは広大な表面積をもつ卵管膨大部の粘膜を泳いでたったひとつしかない卵子を探し求める,4.卵子は透明帯と放線冠によってバリアーを構築しており,これを突破して授精するには多くの精子の共同作業が必要となる。これらのことから,以下のふたつの仮説が考えられよう。仮説1=ヒトの卵管膨大部と放線冠は,元気の良い精子を多数送り込めるオスを選ぶべく進化した。仮説2=ヒトの卵管峡部は精子競争をすすめるよう進化した。
著者
榎本知郎著
出版者
金芳堂
巻号頁・発行日
1983
著者
榎本知郎著
出版者
平凡社
巻号頁・発行日
1994