著者
宗近 功 田中 洋之 田中 美希子 川本 芳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.25, pp.60, 2009

[目的]絶滅危惧種であるクロキツネザル(<i>Eulemur macaco macaco</i>)において,その飼育個体群を対象に,父子判定を含む遺伝的管理を実施するためにマイクロサテライトDNAの多型調査を行っている。前回の日本霊長類学会第24回大会にて,近縁他種で開発されたマイクロサテライトDNAのうち,10遺伝子座が対象の個体群で多型的であることを報告した。本研究では,これらのマイクロサテライトDNAを用いて親子判定を行い,その結果,飼育群の血縁構造に関して興味深い知見を見いだしたので報告する。<br>[方法]対象としたのは(財)進化生物学研究所で飼育している群れで,父親候補3頭,母親3頭,その間の子供5頭および血縁の無い成体オス1頭が含まれる計12頭である。分析には,多型が認められた10遺伝子座(<i>Efr09</i>, <i>Efr30</i>, <i>Em2</i>, <i>Em4</i>, <i>Em5</i>, <i>Em9</i>, <i>Lc1</i>, <i>Lc7</i>, <i>47HDZ268</i>)を用いた。マイクロサテライトの遺伝子型を比較し,父子関係および母子関係を明らかにし,当研究所の飼育管理記録と比較した。<br>[結果]マイクロサテライトの遺伝子型から,5頭全ての子供の父親を解明する事が出来た。また,母子関係についても確認したところ,子供をもつ成体メス2頭は,それぞれ異なる父親の子供を産んでいた事が判明した。一方,我々の記録の上で母親としていた個体がマイクロサテライト分析から否定される結果が得られた。<br>[考察]今回,飼育記録上の母親と子供の組み合わせに誤りがあったことが指摘された。その2例とは,出産日が互いに近い2頭の子供とその母親を取り違えて記録していたことである。最初は単なるミスと考えてられたが,クロキツネザルの子供は生後1週間を過ぎると群れ内の個体とよく遊ぶことや,メス間で子供を奪い合うことも観察されているため,飼育下のクロキツネザルにおいてswappingによる子育てが起きている可能性もあると考えられた。その後,群れ内で闘争が起こり,メス3頭のグループが1頭の繁殖可能なメスを攻撃し,死に至らしめた。マイクロサテライトの分析から,死亡したメスは実の子を含むメスグループから攻撃を受けた事が判明した。また,例数が少ないので断定は出来ないが,群内の繁殖可能なメス2頭から生まれる子供の父親が毎年変わっていることから,クロキツネザルの繁殖は「雑婚」の形態を取っている可能性が考えられた。

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こんな論文どうですか? マイクロサテライトDNA解析から得られた飼育下クロキツネザルの血縁構造に関する知見(宗近 功ほか),2009 https://t.co/iMsefOa23J

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