- 著者
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横山 修
泉 明宏
中村 克樹
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.23, pp.91, 2007
近年、マカクザルが、自らがある事柄を記憶しているか否かをある程度理解していること、つまり、メタ記憶能力を持つことを示唆する結果が報告されている。例えば、長期間の訓練後にあるアカゲザルは、記憶課題の正試行と誤試行とで異なる報酬を選択できることが示された。しかし、例数も少なく、また長期の訓練が必要かどうかなど、マカクザルのメタ記憶能力に関しては未だよく分かっていない。本研究では、記憶課題遂行後に報酬を得るためにある画像に触れることを要求する遅延見本合わせ課題を用い、記憶課題の訓練以外に特別な訓練をせず、報酬を要求する行動が記憶課題の正誤に応じて異なるかどうかを解析した。まず、タッチパネルモニタを用いて1頭のニホンザルに遅延見本合わせ課題を訓練した。十分な訓練後、試行の最後に別の画像を呈示するようにした。その画像に触れること(報酬要求行動)で、記憶課題が正解だった場合にはサツマイモ、誤りだった場合にはタイムアウトを与えた。その後、新しい試行を開始した。報酬要求行動における反応潜時を解析したところ、正試行よりも誤試行において有意に長く、ニホンザルが記憶課題に正しく答えたかどうかを区別していたことが示唆された。与えられる報酬や罰は反応潜時によって変化しないため、成績依存的な反応潜時の違いは訓練を通して獲得されたものではない。ニホンザルが、記憶課題後その正誤に応じて自発的に異なる行動をとったと考えられる。特別な訓練を行わずにこうした行動が見られたことは、ニホンザルには記憶に基づいて自ら行なった行動の妥当性を評価する能力があり、外部環境だけでなく内部状態をも考慮に入れたより適応的な行動の産出を行いうることを示唆する。