著者
大羽 和子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.19, pp.198, 2007

<BR> わが国では近年,食生活の欧米化や栄養バランスの偏りによって,ガンや,循環器系疾患,糖尿病などの生活習慣病が増加し,大きな社会問題になっている。これら生活習慣病の発症は,食べ物や食生活と密接な関連性があることが疫学的にも指摘されて,食による健康維持・疾病予防に関心が高まっている。食品と人体との相互作用を前提として食品の3つの機能(一次機能:栄養的機能、二次機能:嗜好的機能、三次機能:生体調節機能)が提唱されたのは1984年である。その後、この生体調節機能に注目が集まり、日本型食生活が見直されるなか、野菜、大豆、魚、海藻、茶などに含まれる機能性成分の研究が精力的に進められ、その結果、特定保健用食品をはじめ、いわゆる健康食品やサプリメントが開発されてきた。過剰な活性酸素の産生がガンや心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病の発症に深く関わっていることが明らかになってきたからである。野菜などの植物性食材には、高い活性酸素消去能を有するポリフェノールやビタミン(V)C,E,カロテノイドの他、含硫化合物、食物繊維、ミネラルなど,健康維持・増進に必須な成分が多く含まれている。<BR> 生の食材の機能性成分に関する研究は多いが、調理後の食べ物(料理)についての研究例は限られている。調理の仕方しだいで、調理中に分解する物や新しく生成される物などがある。<BR> 本日は、植物性食材の抗酸化機能、ビタミンCを中心に、生の食材に含まれる機能性成分が調理後の食べ物中には無くなっている研究例なども含め、食材の持つ健康増進機能(健康機能と略す)を活かす調理について考えてみたい。<BR><B>1.野菜の貯蔵・生食調理と健康機能成分</B><BR> (1)収穫後の野菜の冷蔵温度はVC残存率に影響を与える。例えば4℃で貯蔵すると2,3日後にVC量が一過的に増大するが、長期間貯蔵する場合はVCの減少が大きい。冷やし過ぎず10~15℃くらいで貯蔵するほうが残存するVC量が多い。(2)野菜の塩漬けはVCの酸化を促進する。(3)生食調理(サラダやジュース)をするときは、VCを酸化するアスコルビン酸オキシダーゼ活性を抑制する塩類や有機酸をうまく使う。<BR><B>2.野菜の加熱調理と健康機能成分</B><BR> <B>(1)加熱の利点:</B>1)ポリフェノール類が溶出され易くなる。2)高温加熱で褐色のメラノイジンが生成されラジカル捕捉活性が増大する。<B>(2)加熱の欠点:</B>1)食材や加熱調理法によってVCの損失割合が異なる。食する時期(調理直後か調理後冷蔵してからか)によって加熱法を変えることが望まれる。2)市販惣菜のVC量は家庭内調理に比べて著しく少ない。3)生鮮食材にラジカル捕捉活性や発ガン抑制効果があっても、加熱で全く効果のない物質に変わる物もある。<BR><B>3.調味料・スパイス・ハーブの健康機能成分の利用</B><BR> (1)日本の伝統的な調味料である味噌、醤油、みりんなどに含まれる種々の健康機能成分をうまく利用する。(2)スパイス・ハーブを使い、食べ物にアクセントをつけ嗜好性を高めるとともに、それらに含まれる機能性成分を利用する<BR><B>4.食材の調理を通して健康増進</B><BR> 実際、"何をどれだけ、どのように食べれば良いのか"について、個々人に対する決まった回答は得られていない。しかし、一人ひとりが健康を維持するためには、健康食品やサプリメントに頼ることなく、生活習慣病予防などの観点から2000年に策定された「健康づくりのための食生活指針」や2005年に策定された「食事バランスガイド」に示されている料理の目安を理解して、野菜を中心に多彩な食材を使い、それに適した調理法で調理し、2人以上で楽しく食事をすることが健康増進に繋がる。取れたての新鮮な食材を使って、自ら家で調理した料理のおいしさと健康機能成分は、中食や外食では十分に得られない。健康維持・増進に欠かせない「調理する」ことに拘り、それを楽しみたい。

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