著者
平井 幸弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.235, 2008

<BR>1. 「IPCC地球温暖化第4次評価報告書」<BR> 2007年2月~5月、IPCCの「地球温暖化第4次評価報告書」が提出された。このうち気候変動に関する最新の科学的知見を評価した第1作業部会報告書では、1906年~2005年までの100年間で世界の平均気温は0.74℃上昇、最近50年間の長期傾向は過去100年間に上昇した気温のほぼ2倍、海水面は20世紀の100年間で17cm上昇、また1970年代以降とくに熱帯・亜熱帯地域でより厳しく、より長期間の干ばつが観測された地域が拡大、北大西洋の強い熱帯低気圧の強度が増してきたことなどが記されている。そして、気候変化の影響、社会経済・自然システムの適応能力と脆弱性を評価した第2作業部会の報告書では、氷河・氷帽の融解による氷河湖の増大・拡大、山岳での岩雪崩の増加、海面上昇による海岸侵食など、すでに世界の各地で起こっている温暖化の影響についても、明記されている。<BR> このような地球温暖化による様々な影響は、場所によっては、これまでその地域で経験したことのない大災害を引き起こしたり、災害の発生頻度が高まったりする場合もある。地球温暖化との直接的な因果関係は証明されていないが、2005年8月にアメリカ南部を襲ったハリケーン・カトリーナや、本年9月~10月のサハラ以南のアフリカ諸国での記録的洪水、また11月にバングラデシュを襲ったサイクロンなどによって、数千人規模の死者や数十万・数百万人の被災者が出ている。このような近年の状況を考えると、今後温暖化に伴う地域規模・地球規模の災害が、ますます深刻な問題となることが懸念される。<BR><BR>2. 地球温暖化への緩和策と適応策<BR> 先のIPCCの報告書では、たとえ温室効果ガスの濃度を安定化させたとしても、今後数世紀にわって人為起源の温暖化や海面上昇は続くとされる。そのため温暖化に対しては、温室効果ガスを大幅に削減する緩和策とともに、将来の不可避的な干ばつや洪水などの気象災害や、継続的な海岸侵食などに対する適応策を、早急に検討・実施していく必要がある。この場合、発生する災害現象は、それぞれの地域の自然システムの特徴や相違、また社会・経済システムの脆弱性の大小によって、影響の範囲や規模、災害の様相は大きく異なる。近年は経済の急激なグローバル化によって、とくに開発途上国における貧困化の進行、観光業の発展による大量の人の移動、大規模な灌漑施設の整備・過剰揚水等による土地の荒廃など、地域における災害に対する脆弱性が増大しているところも多い。<BR> したがって、地球温暖化への対応として講じられる適応策は、それぞれの地域の自然および社会・経済システムを十分に把握した上で、実施されなければならない。<BR><BR>3. 地理学からのアプローチ<BR> 例えば、すでに世界各地で深刻な問題となっている「海岸侵食」問題を例に挙げてみたい。ベトナム北部の紅河デルタの海岸や、中部のフエのラグーン地域、また南部のメコンデルタの海岸でも、それぞれ激しい海岸侵食が起こっている。紅河デルタでは三重に築かれた海岸堤防の海側2列が侵食により決壊し、多くの住民がすでに移住を余儀なくされている。フエ・ラグーンでは、1999年の大洪水をきっかけに砂州が複数ヵ所決壊し、その周辺で急激な侵食と砂丘の崩壊が起きた。メコンデルタでは、海岸のマングローブが侵食され後退する一方、内陸側ではエビの養殖池の造成のためマングローブが広く伐採されている。このように、それぞれの海岸の地形や水文条件、また開発の歴史や生業、集落組織、文化などの社会・経済条件などを、十分調査した上でなければ、各地域に有効な適応策は考えられない。そのためには、まず現場の実態把握と、災害メカニズムの科学的調査、そしてそれぞれの地域における住民を含めた適応策の検討が必要である。<BR> このようなグローバルな環境変化や災害現象に対して、すでに地理学の立場から多くの調査・研究がなされている。本シンポジウムでは、近年あるいは今後懸念される「地球温暖化」と関連する様々な災害についての報告をもとに、地理学の様々な分野から、今後の地域・地球規模の災害への対応について幅広く討論したい。

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