著者
平井 幸弘
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.679-694, 1983-10-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
27
被引用文献数
19 14

関東平野中,部の加須低地と中川低地とでは,沖積層の層序・層相や低地の微地形に違いが見られる.この違いをもたらした要因を明らかにするために,沖積層の堆積環境の地域的差異と時間的変化を,沖積層堆積直前の地形(前地形)の変化という視点から考察した. 中川低地では,最終氷期極相期に渡良瀬川・思川によって,深い谷(中川埋没谷)が形成された.後氷期の海進はその谷の全域に及び,海成層が堆積した.その後,河川は勾配の緩やかな幅広い谷底を自由蛇行し,それに沿って自然堤防を発達させてきた. 加須低地では,沖積層に薄く被覆された洪積台地(埋没小原台~武蔵野面)が存在している.後氷期の海進は,この台地を開析した複数の小さな谷(加須埋没谷)の下流部にのみ及んだ.その後,河川による堆積は,最初谷中に限られていたが,谷が埋積されると,沖積層の堆積域は台地面上へと拡大し,地域全体が「低地」化した.しかし,台地を覆っている沖積層は薄いため,沖積面下の台地の凸部が微高地(台地性微高地)として島状に残っている.河道は,埋没谷の位置とほぼ一致し,蛇行帯の幅が狭く,自然堤防も直線的な形態を示す.
著者
平井 幸弘
出版者
THE TOHOKU GEOGRAPHICAL ASSOCIATION
雑誌
東北地理 (ISSN:03872777)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.81-91, 1983 (Released:2010-04-30)
参考文献数
32
被引用文献数
4 1

This paper explains the formation of lacustrine and sublacustrine microforms of Lake Ogawara, one of the brackish-water lakes in Northeastern Japan, with relation to the lake-level changes after the maximum phase of Postglacial Transgression. In addition to morphological observation, surface-geological survey and bore-hole record analysis were made on land and echo sounding and sediment sampling were made at the lake bottom. Some of the sediments were analysed mineralogically.Various microforms are recognized and mapped and they are classified into the four groups, each of which was formed at the different lake level from others. Chronology of the groups is established on the basis of morphostratigraphy with the aid of tephrochronology and archeology. The results are summarized in the following table.All the microforms discussed were successively formed near the shore line which shifted corresponding to changing lake level within the height range between +4.0m and -1.5m above the present sea-level. The small difference in height causes the partial superposition of younger microforms to older ones. It contributes to the development of apparent littoral shelves which are in fact composed of several microforms of different ages in late Holocene. The fact that the littoral shelves of Japanese brackish-water lakes are wider in general than those of inland lakes will be partially explained by the processes as above.
著者
淺野 敏久 金 枓哲 平井 幸弘 香川 雄一 伊藤 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.223-241, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2

本稿では,韓国で2番目にラムサール登録されたウポ沼について,登録までの経緯とその後の取り組みをまとめ,沼周辺住民がそうした状況をどのように受け止めているのかを明らかにした.ラムサール登録されるまでの過程や,その後のトキの保護増殖事業の受け入れなどの過程において,ウポ沼の保全は,基本的にトップダウンで進められている.また,湿地管理の姿勢として,「共生」志向というよりは「棲み分け」型の空間管理を志向し,生態学的な価値観や方法論が優先されている.このような状況に対して,住民は不満を感じている.湿地の重要さや保護の必要性への理解はあるものの,ラムサール登録されて観光客が年間80万人も訪れるようになっているにも関わらず,利益が住民に還元されていないという不満がある.ウポ沼の自然は景観としても美しく,わずか231 haほどの沼に年間80万人もの観光客が訪れ,観光ポテンシャルは高い.湿地の環境をどう利用するかが考慮され,地元住民を意識した利益還元や利益配分の仕組みをつくっていくことが課題であろう.
著者
淺野 敏久 金 枓哲 伊藤 達也 平井 幸弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.277-299, 2009-07-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
21
被引用文献数
10 6

韓国全羅北道のセマングム地域で大規模な干拓事業が行われている.同国最大の干潟を失うことや事業目的が不明確な公共事業の必要性への疑問などから,セマングム干拓問題は大きな社会問題となった.本稿ではこのセマングム干拓問題を事例として,地域開発に関連した環境問題論争が持つ空間的な特徴を,市民・住民運動団体の主張に焦点を当てて検討した.新聞記事による出来事の整理と5年間の断続的な現地調査(環境運動関係者への聞取り)に基づいた分析の結果,全国・道・地区という三つの空間スケールごとの「セマングム問題」の存在と,その時間的な変化が明らかになった.また,異なる空間スケールを射程に入れた環境問題の争点が,地域的に異なる論争の場において複層的に存在しており,全体としての「セマングム問題」は,各運動体の事情や思惑に応じて,交流や連帯という手段によって,構成・提起され続けていることも確認した.
著者
淺野 敏久 李 光美 平井 幸弘 金 科哲 伊藤 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.138-153, 2011 (Released:2011-02-12)
参考文献数
14
被引用文献数
2 6

江蘇省,浙江省,上海市の境にある中国で3番目に大きな淡水湖である太湖は,流域内の開発が著しく,深刻な富栄養化問題に直面している.2007年にはアオコ(藍藻類)が大発生し,無錫市において数日間にわたって給水が停止し,200万人以上に影響が出るという事件が生じた.この事態に中国では国をあげて,長江からの導水や下水処理場・下水道の重点的整備,排水対策のできない中小工場や畜産施設の閉鎖,養殖場の閉鎖などの浄化対策が短期間に多額の投資のもとに講じられた.本稿では,現地調査と文献等により,その状況を報告し,あわせて中国の環境対策と都市整備の関係について述べる.
著者
平井 幸弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p><b>1. ハザードマップの基礎情報としての地形分類図参照の意義</b></p><p></p><p> 2011年3月の東日本大震災では、避難時にハザードマップを過信することの弊害や、マップそのものの限界が指摘された。これに対し鈴木編(2015)や地理学会災害対応委員会(平井ほか、2018)では、ハザードマップを真に有効な地図として使うには、マップ作成の基礎情報となっている地形分類図や土地条件図への理解が重要で、マップ利用の際にそれらを参照することを強く推奨してきた。</p><p></p><p>一般に利用可能な地形分類図として、地理院地図には土地条件図、治水地形分類図、土地分類基本調査の地形分類図等が整備されている。しかしこれらはそれぞれ凡例が異なり、災害リスクについての具体的な言及がないために、ハザードマップと併用する際には専門的な知識や経験がなければ困難であった。そこで最新の地理院地図(ベクトルタイル提供実験)では、「身の回りの土地の成り立ちと自然災害リスクがワンクリックで分かります」とうたい、地形分類図の各地形をクリックすると、その場所の「土地の成り立ち」と「自然災害リスク」について解説が表示されるように工夫されている。</p><p></p><p></p><p></p><p><b>2. 地形分類図を参照する際の問題点</b></p><p></p><p> 地理院地図での地形分類図の整備は進化してきたが、以下に述べる2つの重大な問題がある。一つは、「自然災害リスク」の解説が、地形要素ごとに一般的な記述で定型化されており、必ずしも実際の現場のリスクを示していない点である。自然災害のリスクは、同じ地形でもそれぞれの場所・地域によって異なるので、一般的・定型的記述は、それぞれの場所での実際の災害に対して、誤解や避難の判断ミスを招く恐れがある。例えば、関東平野中央の加須低地花崎付近は、台地面が河川氾濫堆積物の下に埋没しかけている場所で、ローム層に覆われた更新世堆積物が島状の微高地を作っている。地理院地図の地形分類図ではそこは「台地・段丘」と表示され、自然災害リスクとして「河川氾濫のリスクはほとんどないが、河川との高さが小さい場合には注意」と表示される。現地では、この微高地と沖積面との比高はほとんど無く、微高地上に築かれた戦国期の城の一部が、厚さ1m以上の河川堆積物に埋もれ、洪水の影響を強く受けてきたことがわかる。加須市の洪水ハザードマップでも、ここは「最大浸水深が0.5〜3.0m未満の区域」とされ、近隣の小学校の3階以上に避難するよう記されている。この場合、地形分類図を参照することはかえって混乱を招きかねない。</p><p></p><p> 2つ目の問題点として、ベクトルタイルの地形分類図の元データは主に「数値地図25000(土地条件)」と「治水地形分類図」(更新版)であるが、これらが作成されているのは都市部、平野部の一級河川沿いの非常に狭い範囲に限られ、近年水害や土砂災害が頻発している河川上流部や支流、山間部は未整備という点である。これに対し国土地理院では、全国を広範囲でカバーしている土地分類基本調査の地形分類図を使用して、地形情報の整備・提供を目指している(2018~21年)。しかしこの地形分類図は、縮尺が1/5万で、作成された時期がおもに1970年代と古く、また凡例が図版ごとに微妙に異なり多種・多様である。そのような地図をベクトルタイルのベースマップとして全国的に整備した際、どうすればハザードマップの参照すべき情報として有効なものになるだろうか?</p><p></p><p></p><p></p><p><b>3. ハザードマップの実践的活用のために</b></p><p></p><p> 地理院地図のベクトルタイルの地形分類図の利用は、一般的な防災教育などでは非常に有益であろう。しかし実際のそれぞれの場所におけるハザードマップの参照情報として活用するためには、さらに工夫が必要と考える。すなわち災害には地域性があるために、まずはハザードマップを市町村レベルの広い行政区ではなく、地域コミュニティの範囲で整備すること、そしてそこでの過去の災害履歴や近年の土地改変などを踏まえ、地形分類図で示されるその場所の地形情報と、想定される災害との関係をしっかり把握することが重要である。そのためには、それぞれの地域のことをよく理解し、地形や災害に関する専門的な知識を持った人材が、その作業に関わることが必要であろう。それはまさに、現在各地で活躍している自然地理学研究者が、地域の人と一緒に現場へ出て汗をかくと言うことではないだろうか。</p><p></p><p></p><p><b>文献</b></p><p></p><p>鈴木康弘編(2013)『防災・減災につなげるハザードマップの活かし方』岩波書店</p><p>平井幸弘ほか(2018)防災の基礎としての地形分類図. 地理63-10.</p>
著者
淺野 敏久 金 枓哲 伊藤 達也 平井 幸弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.139, 2007

<BR>1.はじめに<BR> 2006年4月に韓国・セマングム干拓事業の防潮堤がつながった。2箇所の水門はまだ開放されているものの,約33kmの堤防により干拓事業地は外海から締め切られた。事業はまだこれからが肝心の部分であるが,ここに至るまで,世界的な巨大開発事業に対して,環境への影響を懸念した反対運動が全韓国的に展開されてきた。<BR> 報告者らは,セマングム問題に関する調査を,2003年度より共同研究として続けてきた。2006年度は,科研費は切れていたが,締め切り後の状況を知るために現地を訪れた。今回は,セマングム問題の現状を報告するとともに,断片的に状況を把握したレベルではあるが,この間のセマングム問題をめぐる環境運動の変化について,運動体の支持層・参加層の空間的な違いに注目しつつ指摘することを目的とする。<BR>2.セマングム問題の経緯<BR> 韓国西南海岸では,1970年代に干潟の開発が注目され,西南海岸干拓農地開発事業基本計画が策定された。セマングムはその10分の1を占める巨大開発で,閉め切り面積は約4万ha,干拓面積は28,300haに及ぶ。セマングム開発は1991年に起工されるが,1996年に同様の干拓地であるシファ地区での水質悪化が社会問題化し,これをきっかけに,セマングム開発への懸念が全羅北道の環境団体から投げかけられると,全国的な注目を集めることになった。<BR> 全羅北道が強く要望する産業・都市開発に対して,1998年末に用途変更は認めないと農林部が表明,セマングム開発は建前上,農地開発を行うものとして進むことになる。水質問題が争点になり,環境影響評価を行うための民・官共同調査団が組織され工事が一時中断した。この間,反対運動は全国的に広がり,環境団体,労働・社会団体などが抗議行動を次々に起こしていった。<BR> 一方,高まる事業反対世論に抗して,全羅北道の有識者らが環境に配慮した事業の推進を求め,全道的な事業推進運動に発展していく。農地だけではない産業・都市開発が提案され,「親環境的な開発」がキーワードになっていく。 <BR> 2003年3月,キリスト教や仏教の宗教指導者が,三歩一拝デモを始めると,賛否双方の運動はますます過熱化し,社会的混乱が生じ,同年7月にソウル行政法院が,反対派の求めた本訴判決までのセマングム工事執行停止を命じると,それはピークに達した。翌年1月に,ソウル高裁はこの仮処分決定を取り消し,2005年2月にソウル行政裁判所が事実上の原告(反対派)勝訴判決を下すものの,進行中の防潮堤補強工事と残る区間の防水工事の工事中止決定を出さなかったために工事は進み,さらに控訴審で原告敗訴の判決が下ると一気に防潮堤工事が進んで,2006年4月にはセマングムは水門部分を除いて外海から隔てられることになった。<BR>3.ケファの変化<BR> ところで,筆者らは,地元の反対運動の拠点となったケファ地区を2003年から2006年まで毎年訪れ,この問題に翻弄されたこの集落の変化を見た。初めての時は,過激な行動を辞さない抵抗運動が行われ,ソウルから若い「活動家」が住み込んでいたが,工事が再開した2005年には彼らはいなくなり,絶対反対のこの地区と親環境的な開発を視野に入れた方針転換を図りつつあった全国的環境団体との温度差がみられるようになった。2006年にはこの地区の干潟は消失(陸化)して,砂地がどこまでも広がる景観が現れ,この地区では干潟の恵みを生活の糧にすることはできなくなっていた。絶望感が漂う一方で,これからどうするかというアイディアが,反対を続けてきた住民の中から出されてもいて,この土地で生き続けてきた人のしぶとさも感じられた。<BR>4.環境運動の変化<BR> この問題について調べる中で,韓国と日本の環境運動の違い,例えば,民主化運動とのつながり,大衆的な運動スタイル,運動団体の規模・人員の充実度,労組や宗教団体などとの幅広い連帯,運動の舞台となるソウルの重要性といったことや,セマングム問題を理解する上で重要な全国レベル・道レベル・地区レベルそれぞれの空間的な枠組み,例えば,運動がこの空間ごとに異なる様相を示し,それぞれでの利害関係が問題の社会的な側面を構成していることなどに気づかされた。本報告では,この環境運動の空間構造について論じるつもりである。
著者
平井 幸弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.235, 2008

<BR>1. 「IPCC地球温暖化第4次評価報告書」<BR> 2007年2月~5月、IPCCの「地球温暖化第4次評価報告書」が提出された。このうち気候変動に関する最新の科学的知見を評価した第1作業部会報告書では、1906年~2005年までの100年間で世界の平均気温は0.74℃上昇、最近50年間の長期傾向は過去100年間に上昇した気温のほぼ2倍、海水面は20世紀の100年間で17cm上昇、また1970年代以降とくに熱帯・亜熱帯地域でより厳しく、より長期間の干ばつが観測された地域が拡大、北大西洋の強い熱帯低気圧の強度が増してきたことなどが記されている。そして、気候変化の影響、社会経済・自然システムの適応能力と脆弱性を評価した第2作業部会の報告書では、氷河・氷帽の融解による氷河湖の増大・拡大、山岳での岩雪崩の増加、海面上昇による海岸侵食など、すでに世界の各地で起こっている温暖化の影響についても、明記されている。<BR> このような地球温暖化による様々な影響は、場所によっては、これまでその地域で経験したことのない大災害を引き起こしたり、災害の発生頻度が高まったりする場合もある。地球温暖化との直接的な因果関係は証明されていないが、2005年8月にアメリカ南部を襲ったハリケーン・カトリーナや、本年9月~10月のサハラ以南のアフリカ諸国での記録的洪水、また11月にバングラデシュを襲ったサイクロンなどによって、数千人規模の死者や数十万・数百万人の被災者が出ている。このような近年の状況を考えると、今後温暖化に伴う地域規模・地球規模の災害が、ますます深刻な問題となることが懸念される。<BR><BR>2. 地球温暖化への緩和策と適応策<BR> 先のIPCCの報告書では、たとえ温室効果ガスの濃度を安定化させたとしても、今後数世紀にわって人為起源の温暖化や海面上昇は続くとされる。そのため温暖化に対しては、温室効果ガスを大幅に削減する緩和策とともに、将来の不可避的な干ばつや洪水などの気象災害や、継続的な海岸侵食などに対する適応策を、早急に検討・実施していく必要がある。この場合、発生する災害現象は、それぞれの地域の自然システムの特徴や相違、また社会・経済システムの脆弱性の大小によって、影響の範囲や規模、災害の様相は大きく異なる。近年は経済の急激なグローバル化によって、とくに開発途上国における貧困化の進行、観光業の発展による大量の人の移動、大規模な灌漑施設の整備・過剰揚水等による土地の荒廃など、地域における災害に対する脆弱性が増大しているところも多い。<BR> したがって、地球温暖化への対応として講じられる適応策は、それぞれの地域の自然および社会・経済システムを十分に把握した上で、実施されなければならない。<BR><BR>3. 地理学からのアプローチ<BR> 例えば、すでに世界各地で深刻な問題となっている「海岸侵食」問題を例に挙げてみたい。ベトナム北部の紅河デルタの海岸や、中部のフエのラグーン地域、また南部のメコンデルタの海岸でも、それぞれ激しい海岸侵食が起こっている。紅河デルタでは三重に築かれた海岸堤防の海側2列が侵食により決壊し、多くの住民がすでに移住を余儀なくされている。フエ・ラグーンでは、1999年の大洪水をきっかけに砂州が複数ヵ所決壊し、その周辺で急激な侵食と砂丘の崩壊が起きた。メコンデルタでは、海岸のマングローブが侵食され後退する一方、内陸側ではエビの養殖池の造成のためマングローブが広く伐採されている。このように、それぞれの海岸の地形や水文条件、また開発の歴史や生業、集落組織、文化などの社会・経済条件などを、十分調査した上でなければ、各地域に有効な適応策は考えられない。そのためには、まず現場の実態把握と、災害メカニズムの科学的調査、そしてそれぞれの地域における住民を含めた適応策の検討が必要である。<BR> このようなグローバルな環境変化や災害現象に対して、すでに地理学の立場から多くの調査・研究がなされている。本シンポジウムでは、近年あるいは今後懸念される「地球温暖化」と関連する様々な災害についての報告をもとに、地理学の様々な分野から、今後の地域・地球規模の災害への対応について幅広く討論したい。