- 著者
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新名 阿津子
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2005, pp.235, 2005
1.研究の背景と目的21世紀,日本は急速に進みつつある知識社会への移行に直面している(鴨志田2004)。経済学の分野においても,知識経済化の進展が指摘されているが,地理学の分野においては知識経済化に伴う知識産業の立地およびその変容に関する研究は萌芽的研究領域であるため,研究の蓄積が少ないのが現状である。一方で,本研究の対象である経営コンサルタント企業の立地をみると,東京都一極集中型の様相を呈しており,東京都23区内においても,都心地域への集積が顕著にみられる。そこには都市という地域的基盤の上での,知識産業の輩出・成長プロセスがあるのではないかと考えられる。そこで,本報告では知識集約型事業所サービス業の好例(Muller and Zenker, 200)とも言われている経営コンサルタント業を取り上げ,日本において最も多くの当該企業が立地している東京都港区を事例に,事業所の立地およびその設立過程に着目し,都心における当該産業の輩出・成長プロセスを明らかにすることを目的とする。2.資料と研究の方法 本報告が対象とする企業はNTT発行のタウンページの「東京都港区」に記載されている712社 のうち,自社ホームページを開設しているなどして合法的な企業活動の実態が確認できた252社である。それらの立地を把握した上で,研究対象企業の設立年次や資本金などに関するデータを,対象企業のホームページや出版物,企業案内などから収集した。それを元に,事業所の設立過程と事業所の立地展開に関するアンケート調査・聞き取り調査を実施し,経営コンサルタント企業の立地過程について実態の把握を行った。3.事業所の立地(1)外資系企業 港区は各国大使館が立地する地域であり,かつその周辺では大規模な再開発事業による最新のオフィスビルが供給されていることから,グローバルな事業展開を行う多国籍企業にとって好条件な地区となっており,外資系企業の赤坂及びその周辺における集積が顕著である。(2)国内系企業 国内系企業はその事業所の設立過程によって,個人独立開業による事業所と,出資企業からの分社化によって設立された事業所では立地およびその要因が異なる。 個人独立開業型の事業所の立地過程では,金融・サービス業を中心とした産業集積がみられる都心から輩出された知識労働者による起業と,その事業所の都心立地および都心内部での企業成長が確認された。 分社化型事業所の立地は2つのパターンに分類される。_丸1_分散化型:母企業と分社化された事業所の集中立地による企業成長から,立地の分散化による母企業からの独立。_丸2_近接型:出資企業と事業所の近接立地による関係性強化。 今回の発表では,上記の国内系企業の立地展開と事業所設立過程について,詳細な報告をしたい。