著者
柚洞 一央 新名 阿津子 梶原 宏之 目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.13-25, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
24
被引用文献数
2 6

ジオパークは,地形・地質遺産が主となって構成されるが,特に,これまで日本のジオパークでは地質公園的な側面が強く現れていた.Global Geoparks Networkのガイドラインでは,地形・地質のほか,生態系,考古,歴史,文化的価値を持つものの重要性も述べられている.それらは地理学的視点によって関連性を科学的に整理し理解することが重要である.地理学の成果にもとづいて,それぞれのジオパークのストーリー,ナラティブが構築されれば,その地域で発生している問題の解決の糸口を与えることになるだろう.そうすることにより,ジオパークの活動が持続可能な発展を目指すものとなる.
著者
新名 阿津子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.423-434, 2006-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
16
被引用文献数
4

本稿は専門事業所サービス業である経営コンサルタント業を取り上げ,その集中がみられる東京都港区を事例に,経営コンサルタント業の立地特性とその要因を明らかにしたものである.その結果,広域的な地域選択としての東京都心と,局地的な地点選択としてのオフィスビル選択では異なる要因が働くことが明らかになった.前者は,東京大都市圏への顧客の集中を背景に,交通の利便性や顧客への近接性,労働者確保の容易性,ニーズに合致する不動産の存在といった「都心性」と企業設立主体との近接性が,対面接触を重視する経営コンサルタント業の東京都心部における立地を誘発し固着化させていた.後者は,そうした東京都心部において,オフィス面積の需要拡大とそのコスト管理の二つを満たすための合理的なオフィスビルの選択行動であった.いずれにしろ,経営コンサルタント業の立地展開は東京都心に集中しており,都心外への分散化の可能性は低く,結果として東京一極集中の立地パターンを示している.
著者
新名 阿津子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.235, 2005

1.研究の背景と目的21世紀,日本は急速に進みつつある知識社会への移行に直面している(鴨志田2004)。経済学の分野においても,知識経済化の進展が指摘されているが,地理学の分野においては知識経済化に伴う知識産業の立地およびその変容に関する研究は萌芽的研究領域であるため,研究の蓄積が少ないのが現状である。一方で,本研究の対象である経営コンサルタント企業の立地をみると,東京都一極集中型の様相を呈しており,東京都23区内においても,都心地域への集積が顕著にみられる。そこには都市という地域的基盤の上での,知識産業の輩出・成長プロセスがあるのではないかと考えられる。そこで,本報告では知識集約型事業所サービス業の好例(Muller and Zenker, 200)とも言われている経営コンサルタント業を取り上げ,日本において最も多くの当該企業が立地している東京都港区を事例に,事業所の立地およびその設立過程に着目し,都心における当該産業の輩出・成長プロセスを明らかにすることを目的とする。2.資料と研究の方法 本報告が対象とする企業はNTT発行のタウンページの「東京都港区」に記載されている712社 のうち,自社ホームページを開設しているなどして合法的な企業活動の実態が確認できた252社である。それらの立地を把握した上で,研究対象企業の設立年次や資本金などに関するデータを,対象企業のホームページや出版物,企業案内などから収集した。それを元に,事業所の設立過程と事業所の立地展開に関するアンケート調査・聞き取り調査を実施し,経営コンサルタント企業の立地過程について実態の把握を行った。3.事業所の立地(1)外資系企業 港区は各国大使館が立地する地域であり,かつその周辺では大規模な再開発事業による最新のオフィスビルが供給されていることから,グローバルな事業展開を行う多国籍企業にとって好条件な地区となっており,外資系企業の赤坂及びその周辺における集積が顕著である。(2)国内系企業 国内系企業はその事業所の設立過程によって,個人独立開業による事業所と,出資企業からの分社化によって設立された事業所では立地およびその要因が異なる。 個人独立開業型の事業所の立地過程では,金融・サービス業を中心とした産業集積がみられる都心から輩出された知識労働者による起業と,その事業所の都心立地および都心内部での企業成長が確認された。 分社化型事業所の立地は2つのパターンに分類される。_丸1_分散化型:母企業と分社化された事業所の集中立地による企業成長から,立地の分散化による母企業からの独立。_丸2_近接型:出資企業と事業所の近接立地による関係性強化。 今回の発表では,上記の国内系企業の立地展開と事業所設立過程について,詳細な報告をしたい。
著者
小口 高 西村 雄一郎 河本 大地 新名 阿津子 齋藤 仁
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日本地理学会が運用しているツイッターアカウント(@ajgeog)は約1万5千人がフォローしており、諸学会のアカウントの中でも知名度が高く、一定の影響力を持っている。このアカウントは多くの学会のアカウントとは異なり、地理学に関連した一般的なツイートを多数リツイートしたり、フォローを返したりすることが多い。アカウントの運用は同学会の広報専門委員会が担当しており、過去5年間以上にわたり地理学に関する情報の伝達に継続的に寄与してきた。本発表では、2012年9月の同アカウントの開設と、その後の初期運用において中心的な役割を担った5名が、当時の経緯と背後で行われていた議論の内容を紹介する。
著者
新名 阿津子 松原 典孝
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.841-855, 2016-12-25 (Released:2017-01-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2 3

The roles of universities and museums in relation to geoparks are discussed by comparing San'in Kaigan UNESCO Global Geopark in Japan and Lesvos UNESCO Global Geopark in Greece. Bottom-up management is a key to the success of sustainable development. It is important for local people to make decisions on regional matters. Scientists who live in the territory of a geopark are also local people and play multiple roles. They usually work for universities and museums. According to the guideline of UNESCO Geopark, education is an important issue. Geoparks need to connect people with earth science. Educational activities, however, need specific times and places to be carried out. It is essential to provide high-quality educational programs continuously for learners of all kinds in the territory of a geopark. In the case of San'in Kaigan Geopark, individual actors, including administrative officers, local geo tour guides, scientists, and curators provide geopark educational programs for learners without their own geopark educational strategy, because the education committee of San'in Kaigan Geopark discusses school education only and half of the geopark staff members are transferred every year. So, it is not easy for them to take over various tasks of the geopark. This situation in San'in Kaigan keeps learners away from high-quality and continuous education. Under this situation, scientists who work for universities play multiple roles in connecting local people with earth science and other people through multi-scale geopark networks which are of global, regional, national, and local scales, although scientists tend to be rooted and the locations of universities do not necessarily commit scientists to become engaged with the geopark. On the other hand, Lesvos Geopark is a good example. It has a rational educational strategy, develops scientific educational programs combined with geotourism, and provides opportunities for education and employment to local people at the Natural History Museum of Lesvos Petrified Forest. The same staff members at the museum take responsibility for management and education in the geopark. That is why they can develop Lesvos Geopark in a coherent manner.
著者
新名 阿津子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100131, 2012 (Released:2013-03-08)

山陰海岸ジオパーク(以下,山陰海岸)では,ジオパークやジオツーリズムの導入によって新たなる観光客や来訪者を獲得し,国立公園の活動や地域資源の活用が推進されるようになった.既存ガイド団体や民間事業者のジオパーク参入,ガイド団体の新規設立等を通じ,地域経済への貢献も見られるようになってきている.その一方で,ジオガイド養成面では,制度的および実践上の課題が明らかになりつつある.さらに,民間事業者においてはジオパーク向けに開発された商品や体験メニューと「ジオ」との結びつきについて十分な説明がなされていないといった課題が生じつつある. 山陰海岸ではジオガイド確保の必要性から,これまで増員をめざし、各地でジオガイド養成講座を開催してきた.ジオガイド養成にあたっては,市町や各ガイド団体,観光協会,NPO等がガイド養成を担っているため,その運営も市町,団体ごとに異なる.さらに,現在のジオガイド養成システムでは,開講する講座の内容や定期講習会が団体ごとに異なるため,一定の質を保ったガイド育成にはつながっておらず,これがガイドの質のばらつきを生み出している. 山陰海岸におけるジオパーク商品は,既存商品へのロゴ使用,ジオパーク用に開発された商品へのロゴ使用,地場産品へのロゴ使用等がみられる.望ましいのは地域で生産される商品への活用であるが,”made in China”と書かれた携帯ストラップや単純に「ジオ」という文字を冠しただけで,そこに「ジオ」とのつながりを示す解説等は記載されていないものが多い.ジオパーク品質の管理という点からみると,これらは望ましい状況ではないが,現時点では商品開発における明確なガイドラインは示されておらず,これを指導する運営体制になっていない.山陰海岸では世界ジオパーク認定を受けて,ガイド団体や民間事業者がジオパークを活用するようになった.これ自体はジオパーク活用の量的拡大につながっているが,ジオパークとして品質を保証するところに至っていない.また,持続性の観点からみると,ジオガイドの安定雇用もしくは起業に対する支援も整備されていない.収入面での将来的な見通しが立たないため,退職者がジオガイドを担う状態となっている.ジオパークが地域経済への貢献を目指すのであれば,これら運営上の課題,経済的課題を解決してく必要がある.
著者
新名 阿津子
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.99-120, 2009-06-30

本稿は山梨県における経営コンサルティングサービスの供給者特性を,「中小企業向け公的経営指導・支援機関」と小規模ビジネスサービス業の連携から明らかにした.当該サービスは中小企業政策によって制度化され,無料で供給されてきた背景がある.その制度的実践を担う商工会議所や産業支援機構などの「公的経営指導・支援機関」は,交通の利便性が確保された地点に立地し,地域経済に精通した人材が山梨県内に立地する中小企業を対象に,経営相談から問題解決まで一連のサービスを供給しており,主導的役割を果たしてきた.また,コストの面かちみても,サービス料金が発生しないため,「需要者の総負担コスト」が低い形態であった.一方,その補完的役割を担う小規模ビジネスサービス業は,経営コンサルタント業に特化した事業所だけでなく,税理士業や司法書士業などを営む事業所も含まれる.これらの事業所を経営する専門家は山梨県出身の中高年男性で構成され,自宅にオフィスを開設し,キャリア形成時に得た知識,資格,人脈を用いて,中小企業のみならず「公的経営指導・支援機関」や地方自治体ともサービス取引を行っていた.そして,この「公的経営指導・支援機関」を中心としたサービス需給関係は,地域経済との関係が深く,マクロスケールでの山梨県,ミクロスケールでの国中地域,郡内地域という経済圏を中心に形成され,維持されてきたものであり,地域内で完結していた.