- 著者
-
新名 阿津子
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.100131, 2012 (Released:2013-03-08)
山陰海岸ジオパーク(以下,山陰海岸)では,ジオパークやジオツーリズムの導入によって新たなる観光客や来訪者を獲得し,国立公園の活動や地域資源の活用が推進されるようになった.既存ガイド団体や民間事業者のジオパーク参入,ガイド団体の新規設立等を通じ,地域経済への貢献も見られるようになってきている.その一方で,ジオガイド養成面では,制度的および実践上の課題が明らかになりつつある.さらに,民間事業者においてはジオパーク向けに開発された商品や体験メニューと「ジオ」との結びつきについて十分な説明がなされていないといった課題が生じつつある. 山陰海岸ではジオガイド確保の必要性から,これまで増員をめざし、各地でジオガイド養成講座を開催してきた.ジオガイド養成にあたっては,市町や各ガイド団体,観光協会,NPO等がガイド養成を担っているため,その運営も市町,団体ごとに異なる.さらに,現在のジオガイド養成システムでは,開講する講座の内容や定期講習会が団体ごとに異なるため,一定の質を保ったガイド育成にはつながっておらず,これがガイドの質のばらつきを生み出している. 山陰海岸におけるジオパーク商品は,既存商品へのロゴ使用,ジオパーク用に開発された商品へのロゴ使用,地場産品へのロゴ使用等がみられる.望ましいのは地域で生産される商品への活用であるが,”made in China”と書かれた携帯ストラップや単純に「ジオ」という文字を冠しただけで,そこに「ジオ」とのつながりを示す解説等は記載されていないものが多い.ジオパーク品質の管理という点からみると,これらは望ましい状況ではないが,現時点では商品開発における明確なガイドラインは示されておらず,これを指導する運営体制になっていない.山陰海岸では世界ジオパーク認定を受けて,ガイド団体や民間事業者がジオパークを活用するようになった.これ自体はジオパーク活用の量的拡大につながっているが,ジオパークとして品質を保証するところに至っていない.また,持続性の観点からみると,ジオガイドの安定雇用もしくは起業に対する支援も整備されていない.収入面での将来的な見通しが立たないため,退職者がジオガイドを担う状態となっている.ジオパークが地域経済への貢献を目指すのであれば,これら運営上の課題,経済的課題を解決してく必要がある.