著者
今井 理雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.239, 2005

1.はじめに 交通網とそれを取り巻く諸環境の整備は,社会経済の円滑な遂行において必要不可欠である.近代交通機関が発達し,高度経済成長以降のモータリゼーションによって,自家用車の保有が一般化したが,一方,近年では公共交通機関の必要性も再認識されている. 公共交通の必要性が再認識されるなかで,とくに欧州の先進的システムが研究,紹介されているが,我が国の公共交通システムとは本質的な相違も指摘される.また政策的,制度的な背景もさることながら,交通事業者がもたらす営業施策の姿勢も根本的に異なる.我が国における公共交通システムが衰退した要因として,事業者個々のハード整備には積極的であった反面,相互の連携や,ソフト面の整備が重視されてこなかったことが大きいと思われる. とくに複数の交通モードが錯綜し,ネットワークが複雑に入り組む都市部においては,適切な交通システムの構築が重要である.複数の異種公共交通機関の連携は,広範な都市内を有機的に結びつける重要な方策であるが,我が国の大部分の都市では,このようなシステムの構築に視線が向けられることはほとんどなかった.そのなかで北海道札幌市では,戦後日本の都市が試みてこなかった公共交通の連携システムが模索された. 本研究では,我が国の都市公共交通システムにおいて,先進的な役割を果たしたと考えられる札幌市での公共交通ネットワーク形成の過程を対象とし,とくに地下鉄とバスとの連携について,定性的な分析を試みる.2.札幌市における公共交通の整備 北海道札幌市は,人口187万人を有する地方中枢都市のひとつである. 現在に続く公共交通は,1880年に開業した手宮・札幌間の鉄道が嚆矢である.もっとも,札幌市における都市公共交通の機能を拡大させてきたのは,札幌市交通局と民営バス事業者であった.とくに戦前から現在にかけて,市電,市営バス,地下鉄を一体的に運営してきた交通局の位置付けは大きい. 札幌市における公営交通事業は1927年,札幌電気軌道株式会社が運行していた路面電車事業を買収することにより開始された.次いで市営バス事業が1930年,3系統,総系統長14.744kmで開始されている.市電事業は1964年まで拡大され,総延長約25km,1日あたりの輸送人員は約28万人となった.しかし,同年をピークに市電の輸送人員は減少に転じ,市営バスが市電の輸送人員を上回った.1967年には札幌冬季オリンピックの開催を契機として地下鉄建設が決議され,1969年には地下鉄南北線の建設が開始された.これにともなって,地下鉄と重複する区間から市電が順次廃止されており,1971年10月から1974年5月にかけて,4度にわたり廃止・縮小された.また,札幌市における地下鉄の建設・開業にあたっては,市電を廃止するのみならず,市営バス路線の大幅な見直しを実施した.3.地下鉄開業にともなうネットワークの再編成 地下鉄開業以前,札幌市における基幹交通は市電であり,市電が利用できない地域の大部分においては,市営バスがその輸送を担っていた.しかし地下鉄を都市の基幹交通と位置付けるなかで,1971年の地下鉄南北線,北24条・真駒内間の開業にともない,都心から放射状にあった市営バス路線の大部分を,近接の地下鉄駅に短絡させる再編成を行なった.その後7回にわたり,地下鉄の開業にともなって,市営バス路線が再編成されている. これと同時に,地下鉄駅におけるバスターミナル整備と,地下鉄とバスとのあいだで,普通運賃の乗継運賃制度を開始させている.乗継運賃制度は全国初の試みであり,札幌市における軌道系交通とバス交通とのネットワークを形成・維持するうえで,根幹をなす施策であった思われる. また当初は,市営バスのみで再編成および乗継運賃制度が実施されたが,のちに民営バス事業者も対象に組み込まれた.とくに,1994年10月の東豊線福住延伸以降,地下鉄の開業地域周辺におけるバス事業者の主管エリアが,民営バス中心となってきており,これらの大幅な再編成が実施されるようになった.もっとも,これらのバス路線再編が完全に成功しているとはいい難く,わずかに残存した都心直通系統が混雑する傾向も見られる. このようなバス路線の再編成について,地下鉄などの軌道系交通の開業にともなって実施される例が,近年では多くの都市で見られるが,バスターミナルなどのハード面,また乗継運賃制度の導入といったソフト面の双方において,札幌市が先駆的に果たした役割は大きいと思われる.

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こんな論文どうですか? 札幌市における公共交通ネットワークの変容(今井 理雄),2005 https://t.co/iFZAWDo3jh 1.はじめに 交通網とそれを取り巻く諸環境の整備は,社会経済の円滑な遂行において必要不可欠である.近代交通機関…
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