- 著者
-
湯田 ミノリ
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2007, pp.2, 2007
<BR> フィンランドでは2005年より小中高において新カリキュラムがスタートした.そのカリキュラムでは,高等学校において,大変特徴的な変化が見られる.それは,地理(maantiede)の授業「地域調査(Aluetutkimus)」において,教員,生徒ともに地理情報システム(以下GIS)を必ず使わなければならなくなったという点である.この科目は,専門科目(syventävä kurssi)であり,選択科目ではあるものの,どの高校においても開設しなくてはいけない科目である.言い換えれば,すべての生徒たちにGISを使って学ぶ機会が与えられているのである.<BR> GISが高等学校でカリキュラムに組み込まれるようになった背景には,教科としての地理の位置づけと小学校低学年から行われている徹底した地図教育がある.<BR> フィンランドの学校教育において,地理は生物,科学,物理と同じ自然科学の分野に位置づけられている.中でも,生物と地理は同じカテゴリとされ,教員養成の場でも,互いに主専攻,副専攻としなければならないほど,密接な関わりを持つ.地理の位置づけは,初等中等教育におけるカリキュラムにも大きく影響している.<BR> 森と湖に囲まれたフィンランドにおいては,身近な環境としての自然環境を理解することから科学分野の学習が始まる.小学校1年から4年まで学ぶ「環境・自然科学(ympäristö- ja luonnontieto)」という教科では,身の回りの自然環境を題材に,科学的な知識を得ていくとともに,地図を読み,使う学習を行う.<BR> 小学校1年生から,空間認識を養うため,街の鳥瞰図に触れ,立体図形の認識が登場する.地図は,小学校2年生で登場し,普段使っている部屋の地図化,そして近隣から地球規模までさまざまな縮尺の地図に触れる.そして3年生では,実際の地形図の読み方,コンパスの使い方を学ぶ.そしてその地図と周辺地域を同一視できるようになる.低学年からあらゆる縮尺の地図とともに学習をしてきた児童たちは,その後,学年があがるに従い,地理が地理という独立した教科に派生していいき,学習の範囲が自分の住む州,国,北欧,ヨーロッパと広がり,人口移動や地域的な特徴や差異へと移っていっても,そのなかで自分たちの地域がどこに位置づけられ,それがどのように他と関連しているのかを理解していく.これらの一連の地図を読み解く学習,そして,すべての位置には情報があるという,GISの基礎的な考え方を学んだ上で,高等学校で,ソフトウエアの操作を授業に取り入れている.<BR> フィンランドの高等学校でGISを導入する理由は,生徒たちの空間的思考を涵養する,コンピュータの技術的知識を身につける,身の回りの問題を題材にした教授法の実施といった,世界的な地理教育の発展の傾向もあるが,フィンランドが教科横断的なテーマを多く扱っていることも大きな要因としている.<BR> そして,カリキュラム以外の部分でも,他のヨーロッパの国とも連携してGIS教育プロジェクトを行っていること,大学,そして現役の教員に対するGIS教育の充実などにより,GISを使った授業ができる環境を整えている.