- 著者
-
湯田 ミノリ
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.237, 2020 (Released:2020-03-30)
1.調査の目的フィンランドの小学校においては,地理は,生物,化学,物理,保健の内容が統合された科目「環境」(Ympäristöoppi)で,6年間学ぶ.この科目には,地理的な要素が多く含まれているが,どのような内容を教えているのか,そしてどのような地理的な教育の要素が含まれているのかを明らかにする.2.調査の概要 この研究を行うにあたり,フィンランドの学習指導要領に相当するナショナルコアカリキュラム,そしてこれまで刊行されている「環境」の教科書を調査するとともに,2019年11月に,フィンランド東部の都市ヨエンスーにある基礎教育学校において,授業内容に関して調査を行なった.3.「環境」の教育内容 2014年に新しくなったフィンランドのナショナルコアカリキュラム(OPH 2014)では,6年間で身につける教科横断的技能と,第1・2学年(以下,低学年)と第3—6学年(以下,中高学年)に分けて,その学年で身につけるべき価値観や態度,調査,作業スキル,そして知識と理解という面からの目的,そして,目的に関連する主な内容について説明がなされており,それぞれの項目の関係性がマトリックスで示される.特にコアカリキュラム内に書かれた主な内容の説明については,低・中高学年それぞれに大きく6つの内容があり,どれも様々な領域を含むものとなっている. フィンランドの学校教育の大きな特徴の一つに,内容は基本的に教科書に沿って行われているという点がある.そこで本研究では,「環境」の2種類の教科書を調査対象とし,授業内容の調査を行った.まず,低学年は,学校生活の中から,自分の行動や健康について考え,季節の移ろいから気候や動植物の種類,リサイクルのことや,人体については,部位の名称だけでなく,骨,脳や循環器,筋肉のこととあわせて健康についても学ぶ.地理に関連する内容としては,フィンランドの地形やこの国に住む人々について祝日から理解を深め,地図については部屋の見取り図や映画館の座席表から,上からの視点を身につけ,学校の周囲,地域そしてフィンランド全国の地図の読み方を学ぶ. 中高学年では,大気や水,火,摩擦,天体など,より物理や化学の分野の内容が多くなり,事象を学ぶだけでなく,安全や環境問題と結びつける単元がある.そして生物の進化や,人体の内臓や機能について継続的に学ぶ.そして地理関連の内容は,第3学年でフィンランド,第4学年で北欧諸国,バルト三国とバルト海について学ぶ.第5学年以降は,教科書により違いがあり,一つの教科書では,世界にある地域,主な山脈や緯度の違いによる気候や動植物の変化,ヨーロッパ地誌,そして第6学年でアジア,中東,アフリカ,南北アメリカとオーストラリア・オセアニアを扱う.他の教科書では,第5学年でヨーロッパとアメリカについて学び,さらに世界の時差と計算,緯度経度,GPSについて学ぶ.そして残りの世界の地域については,第6学年で学ぶ. 地図については,例えば第1学年の天気,第2学年の水や食糧,第3学年で植物の分布,低気圧,高気圧と風の発生,第4学年の渡り鳥の移動等の単元でも使われる.本研究は,JSPS科研費JP 17K01231の助成を受けたものです.文献Opetushallitus 2014. Perusopetuksen Opetussuunnitelman Perusteet 2014. Helsinki.