著者
高崎 章裕
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.2, 2008

<BR> 近年,環境への関心が高まり,河川の清掃活動や植林活動などがNPO団体や市民ボランティアによって,全国各地で行われている.地域を越えた住民や市民団体のネットワークの形成は,環境問題を考える上で重要な役割を果たすものと考えられる.<BR> そこで本研究では,熊本県球磨川流域において環境保全を行っている「球磨川水系ネットワーク」の活動,中でも「球磨川源流水リレー」を取り上げ,人々がどのように流域圏のネットワークを築き発展させてきたのか,そしてそのネットワークを通して,地域や球磨川に対する参加者の意識がどのように変化してきたのかについて明らかにすることを目的とする.<BR> 熊本県球磨川流域には17の自治体が含まれ,流域内人口は約14万,流域面積は1,880km<SUP>2</SUP>におよぶ.当該地域にはいまだに決着が付いていない川辺川ダムの建設問題が残されており,球磨川流域の住民は古くから環境問題と向き合ってきた.そして1996年,球磨川の変化に気づいた住民たちが「球磨川水系ネットワーク」を立ち上げた.現在は39団体で組織され,流域内の植林活動,一斉清掃,水質調査などを実施し、また共同イベントとして「球磨川源流水リレー」を毎年開催している.<BR> 「球磨川源流水リレー」とは,竹筒に汲んだ球磨川,川辺川の源流水を人の手だけでつなぎ,約170kmの距離を隔てた八代海まで運ぶイベントである.イベントが始まった1996年の参加者は約50名に過ぎなかったが,ビラ配りなどの地道な宣伝を通して学校や地域に情報を発信し続けてきたことで認知度が高まり,現在では約700名もの流域住民が参加するイベントへと成長した.参加者層は,地域住民や地元の小中高校生をはじめ,カヌー・ラフティングクラブ,漁協組合,そして自治体職員まで非常に幅広い.<BR> そして「球磨川源流水リレー」は,2005年から,不知火海に注ぐ約20河川の源流水を運ぶ「環・不知火海源流水リレー」へと規模が拡大された.「源流水をリレーする」という行為は,人と人,地域と地域を繋ぐ象徴的行為である.参加者たちは,実際に球磨川に接することで現状に気づき,球磨川からの恩恵や自然への感謝の気持ちが芽生え始める.そして、彼らの中には"My River"という考え方を持つものさえ出てきた.「球磨川源流水リレー」の参加者たちは,活動を通して球磨川という特定の自然に対する意識が変化したと捉えることができる.<BR> 本発表では,自然の意味,すなわち場所の意味が,どのように変化し,形成されていったのかについても報告をしたい.

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