- 著者
-
布施 孝志
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2007, pp.225, 2007
<BR><B>1. はじめに</B><BR> 現代に至るまで、東京において数多の都市開発が行われてきた。その対象も、規模を問わず多岐にわたる。これらの開発においては、多かれ少なかれ、地形改変がともなってきた。都市計画による開発の概要は、東京市史稿や区史等において垣間見ることができるが、その中には、地形改変に関する記述を見出すことはできない。更には、個々の小規模開発においては、広く知られていないものも多く存在する。<BR> 一方で、旧版地形図に代表される地図は、作成された時代の都市や地域の姿を雄弁に物語っている。これまでにも、地図を頼りに幾多の開発が行われ、現在の都市の姿があるといえる。その地図を時系列で示せば、都市の歴史を如実にあらわすことができる。<BR> 近年では、GISの技術を用いて、これら旧版地形図をアーカイブ化することにより、その有効活用が期待されているところである(国土交通省国土地理院, 2004)。その結果、時系列情報を統一座標系で管理することが可能となり、比較対照や定量的分析が容易となる。換言すれば、様々な断片的情報を集約し、表現・分析することが可能となるのである。<BR> 以上の背景の下、本研究は、東京都心部における、明治期以降の地形変化を抽出し、地形改変の変化を整理することにより、広く知られていない開発の歴史の発掘を試み、東京の姿を再認識することを目的とする。<BR><B>2. 旧版地形図のデジタルアーカイブ</B><BR> 本研究では、東京都心部における地形改変を網羅的に抽出するために、旧版地形図のデジタルアーカイブ化を行う。対象として、地形表現がなされている初期の大縮尺地形図として、五千分一東京図測量原図(1886、1887発行)に着目する(山口・師橋・清水, 1984)。更に、1909年以降発行されている、1万分1地形図のうち、1909年、1930年(関東大震災後)、1955年(第2次大戦後)、1983年(現図郭に変更後最初のもの)もあわせてデジタル化を行う。なお、対象範囲は、五千分一東京図測量原図にあわせ、東京都心部の7.5km四方とする。これらの地形図を幾何補正によりラスターデータとして整備した。更に、このラスター地形図より、標高点、等高線、水涯線をデジタイジングすることによりデジタル地形モデルを作成し、今後の分析を考慮し、5mグリッドのDEMを整備した。<BR><B>3. 地形変化の抽出・分類</B><BR> 前節で作成した五千分一東京図測量原図によるデジタル地形データと、現在の数値地図5mメッシュ(標高)との差分をとることにより、地形変化箇所の抽出を行う。差分結果のうち、標高値変化の大きな箇所に限定し、土地利用との変化をあわせてみることにより、252箇所を調査対象とした。なお、土地利用変化を追うために、デジタル化していない旧版地形図も、紙媒体のまま適宜参照した。抽出された地形変化箇所を、地形変化の形状、主な土地利用の変化から分類を行う。地形変化形状としては、盛土(盛土、及び崖の盛土)、切土(切土、及び崖の切土)、盛土と切土の両者に分類が可能である。土地利用の変化に関しては、鉄道建設、道路建設、宅地造成、公園等の整備に分類される。<BR><B>4. 地形改変の事例</B><BR> 分類結果より興味深い箇所を例示する。鉄道建設、道路建設の例では、後楽園付近における丸の内線や道路建設のための斜面掘削や九段坂における路面電車開通のための坂の緩勾配化がみられる。宅地造成においては、市ヶ谷台町において、監獄の移転に伴い、谷地が埋め立てられた例がみられる。その他、広く知られていない地形改変の痕跡を確認することができ、東京における都市開発と地形改変の関連性を認識することができた。<BR><B>5. おわりに</B><BR> 本研究では、デジタルアーカイブ化された旧版地形図とデジタル地形モデルを主に用いることにより、地形改変の歴史を追跡し、土木史における旧版地形図の意義を示した。今後は、インフラ整備による開発と、それ以外の開発との分類を行い、都市に与えるインパクトを議論していくことが課題である。<BR><B>文献</B><BR> 国土交通省国土地理院(2004)『基本測量長期計画』<BR> 山口恵一郎・師橋辰夫・清水靖夫(1984)『参謀本部陸軍部測量局「五千分一東京図」測量原図複製版(36面)解題』日本地図センター.