著者
遠藤 尚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.158, 2008

<BR> 世帯や個人の生計は,過去から連続した軌跡を背景として現状が存在しているため,発展途上国農村生計研究において時系列的な観点は不可欠である。そして,社会,経済などの外的要素ばかりではなく,世帯のライフサイクルも世帯生計に影響をもたらす。したがって,外的要因による世帯生計の変化を検討する場合,各世帯のライフサイクル上での生計の特徴を考慮する必要がある。また,ジャワ農村では近隣に居住する親族世帯間に日常生活や農業経営における互恵的な関係がみられるため,生計における親族世帯間の関係についても無視できない。西ジャワ農村では,1980年代後半の民間部門を中心とした急速な経済成長以降,農村内外の農外就業が一層拡大し,若年層を中心に就業構造に変化がみられることが指摘されているが(水野,1999),それによる農村生計の変化について検討した研究ほとんどみられない。そこで,本報告では西ジャワ農村におけるライフサイクルによる世帯生計の変動について把握し,世帯間の親族関係に注目しながら,1980年代後半以降の西ジャワ農村生計の変化について明らかにすることを目的とする。<BR> 調査対象地域は,西ジャワ州ボゴール県スカジャディ村である。当村は,ジャカルタの南60km,ボゴールの南西10km,サラック山北側斜面の標高470~900mに位置し,ボゴールからミニバスで約1時間の道のりにある。村の総面積3.0km<SUP>2</SUP>の内,水田は1.6km<SUP>2</SUP>,畑地は1.1km<SUP>2</SUP>を占める。主な生産物は,水稲および陸稲,トウモロコシ,サツマイモ,キャッサバ,インゲンなどであり,調査対象世帯(RW4,RT3,4の全85世帯)では,副業を含め世帯主の40%が農業関連業に就業している。しかし,対象世帯の内,水田を経営しているのは19世帯に過ぎず,比較的農業収入の割合が高い水田経営世帯についてさえ,農業収入は50%を下回っており,対象地域における世帯収入構成において非農業が占める割合は高いといえる。2005年8月,および2006年12月に,上記の調査対象世帯を戸別訪問し,世帯主の都市就業経験を含む就業の時系列的変化と世帯のライフヒストリーに関する聞き取り調査をそれぞれ行った。<BR> 調査結果から,当村における世帯の経済状況や生計はライフサイクルによりかなり規定されていることが明らかとなった。ライフヒストリーにおける世帯の経済状況の好転理由,悪化理由については,それぞれ約50%の世帯が,「子供の就業(好転)」,「子供の就学(悪化)」などの世帯のライフサイクル上の変化や世帯構成の増減などを理由として挙げている。ただし,世帯生計の維持,拡大の手段は階層によって差異がみられる。大規模な水田を所有する親族集団は,土地や教育などの資産への投資,蓄積が世代を超えて行われる一方で,小規模な水田しか持たない親族集団や水田非所有親族集団は,多就業による一時的な生計の拡大に留まり,長期的な資産の蓄積が進んでいない。<BR> 1980年代後半以降,当村においても都市との移動労働の拡大が進み,20代,30代の世帯主の70%以上を都市就業者もしくは都市就業経験者が占めている。移動労働の拡大は,子供の増加,就学により世帯の経済状況が悪化する時期に当たるこれらの世代の世帯所得を改善している。このような傾向は全ての親族集団にみられるが,子女への教育という人的資源の蓄積に勝る大規模水田所有集団はより高賃金で安定的な職業へのアクセスが可能である。ライフステージや生計構成が異なる親族世帯間の互恵的関係は,親族集団内における経済的差異を緩和する方向へ働いていることが確かめられた。しかし,上記のように,西ジャワ農村においても,資産の蓄積状況やアクセス可能な活動に関して親族集団間に差異がみられ,1980年代後半以降もそれらは時系列的に再生産され,引き継がれているといえる。<BR><BR>水野広祐 1999.『インドネシアの地場産業-アジア経済再生の道とは何か?(地域研究叢書 7)』京都大学学術出版会.

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? 西ジャワ農村における1980年代後半以降の世帯生計:ライフサイクルによる生計の変動に注目して(遠藤 尚),2008 https://t.co/iWyR3RpytO <BR> 世帯や個人の生計は,過去から連続した軌跡を背景とし…

収集済み URL リスト