- 著者
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遠藤 尚
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2018, 2018
1.はじめに<br> 1980年代以降,多様な分野において,発展途上諸国農村におけるグローバリゼーションや市場主義経済化による影響に関する研究が蓄積されてきた。しかし,発展の先発地域では,非農業部門における開発と経済成長が数10年間継続し,農業経営や自然資源の利用状況についても発展当初とは変化しているものと推察される。このような地域における農業と自然資源利用状況との関係を解明することは,今後の発展途上国における経済開発と環境保全との関係を検討するためにも不可欠である。インドネシア,ジャワ島では,近年都市部を中心に食の多様化が進み,生鮮野菜の需要も拡大している。ジャワ島西部の中南部に位置するプリアンガン高地は,ジャカルタやバンドゥンなどの大都市に近く,比較的冷涼な気候のため,大都市向けの生鮮野菜の生産地となっている。しかし,西ジャワ高地地域の野菜栽培については,藤本・三浦(1997)など経済成長前半の1990年代に行われた研究以降,実証的な研究がほとんど行われていない。そこで,本研究では,都市向け温帯野菜産地の一つであるレンバン郡の一農村を事例として,近年の西ジャワ高地地域における野菜生産の現状とそれによる自然資源への影響について明らかにすることを目的とした。<br><br>2.対象地域の概要と研究方法<br>本研究の調査対象地域は,西バンドゥン県レンバン郡スンテンジャヤ村である。当村は,州都バンドゥン市中心部の北約8kmに位置している。また,当村を含むレンバン郡は,標高1,000m以上の高地に位置し,都市向けの野菜生産や酪農が盛んな地域となっている。しかし,当村を含むチタルム川上流部では,1990年以降,畑地面積と年間土砂流出量の増大が指摘されている(Noda et al. 2014)。<br> スンテンジャヤ村においては,2013年9月に,120世帯を対象とした調査票を用いた聞き取り調査を実施した。調査項目は,世帯構成員の属性,就業状況,世帯の動産・不動産所有状況,農地経営状況等である。また,2017年9月に,60世帯の農家を対象とした農業経営状況および自然資源利用状況に関する調査票用いた聞き取り調査を行った。加えて,同時期に,農民グループ長に対する村周辺の土地利用に関する聞き取り調査を実施した。<br><br>3.スンテンジャヤ村における野菜生産と自然資源への影響<br> 2013年の調査において,スンテンジャヤ村では,2000年代以降,野菜作が拡大したことが明らかとなっている。また,西ジャワ州の水稲生産地域と比較して,比較的若い世代が農業に就業していた。2017年現在の主な作物はブロッコリー,キャベツ,トマトなどであり,これらの野菜が資本的にも労働的にもかなり集約的に生産されていた。これらの野菜作では,水源として主に湧水が利用されているが,一部の農家では湧水の減少による水不足がみられた。また,当村には,野菜生産に関する農業技術指導がほとんど実施されておらず,傾斜地における適切な野菜栽培が必ずしも行われていなかった。例えば,畑地の畝が,斜面の傾斜と平行に作られている場合も多く,多くの農地で土壌浸食が発生していた。このような状況は農家自身も認識しており,2009年には,一部の農家により水資源保護と収入確保の両立を目指したグループが結成され,2017年現在までこのグループによる活動は継続していた。<br><br><付記>本研究は,JSPS科研費(15K21207)による成果の一部である。<br>参考文献<br>藤本彰三・三浦理恵 1997.西部ジャワ高地におけるトゥンパンサリ野菜栽培の経営評価-チパナス地域における1年間の農家継続調査結果-.東京農業大学農学集報 41(4):211-228.<br>Noda, D., Shirakawa, H., Yoshida, K. and Oki, K. 2014. Evaluation of ecosystem services regarding soil conservation in Citarum River Basin. International Symposium on Agricultural Meteorology 2014, 18 March 2014, Hokkaido University, Sapporo, Japan.