著者
今井 理雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.159, 2010

規制緩和以降の乗合バス市場において,公営バス事業の民営事業者への移管や委託といった動きは,少なからずみられており,それに伴う影響や課題も顕在化している.これらは当初,移管および委託をスムーズに実施するためのプロセスに注意が払われてきたが,数年が経過し,路線や運行水準の維持および効率的な再編といった,サービスの持続可能性を問う課題が指摘されるようになってきた.公営バス事業は,その社会的な意義や民営事業者では運行が難しい不採算路線の維持など,民営バスとは異なる存立基盤にあることが,これまで経営を維持する目的となってきた.しかし一般的に公営バス事業は,おもに経費に占める人件費の割合の高さから,民営事業者に比べ経営環境が悪く,整理の対象となった(今井,2003).札幌市においては2001年12月,公営バス事業としては今後の収支の改善は望めないことを理由として,事業からの撤退を打ち出し,政令指定都市としては初めて市営バス事業すべてを段階的に民営事業者に移管し,2004年3月末をもって事業を廃止した.<br><br> 今井(2009)では,その移管過程,さらにその後生じた路線廃止をめぐる課題について整理,検討した.また地元紙などでは当初から,行政(交通局)と事業者とのあいだでの不協和音が指摘されてきた.その結果,市営バスから北海道中央バスに移譲された,市域東部に位置する白石営業所所管路線の存廃をめぐり,行政と事業者の公的補助についての思惑の違いから,2008年6月,市民や第三者となる別事業者を巻き込んだ混乱へと発展した.既存事業者が廃止届を提出したため,行政は受け皿となる事業者を選定し,さらに運行を委託することで補助金を拠出し,路線の維持を図ろうとした.しかし巨額の補助金に対する批判報道が集中したため,結局,既存事業者が継続運行することに表明し,廃止届を取り下げた.行政は抜本的な路線維持方策の変更が必要であると判断し,公的補助制度の拡大となる改定が行われたうえで,当該地区の路線を効率的に再編するため,行政,事業者,住民,市民団体を構成員とする検討会議を設置した.これにより「白石区・厚別区地域バス交通検討会議」として,2009年6月から5度にわたって会合がもたれ,意見交換がなされた.また従来,行政と事業者との協議内容が市民に開示されず,批判を受けたこともあり,会議は公開とされた.しかし,抜本的な改善をもたらすような議論がされているとはいい難く,目前の課題に対処するのが限界である.<br><br> 本研究では,札幌市における公営バス事業の民営移譲の事例に着目し,それに伴って生じた民営事業者によるサービス提供の限界に対して,行政や事業者,および住民の意思決定の過程を明らかにするとともに,その方策と課題について考察する.<br><br>(参考文献)<br>今井理雄 2003.規制緩和にともなう路線バス事業の変容.日本地理学会発表要旨集64:67.<br>今井理雄 2009.札幌市における公営バス事業の民営移譲による影響と課題.日本地理学会発表要旨集75:140.<br>

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