著者
野上 道男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.5, 2006

研究の目的と問題の所在:<BR> 未来の地形を予測することは地形学の最終目標である.過去を調べるのも現在を知り、未来を予知するためであろう.地球気候モデルが50年後、100年後の気候をシミュレーションによって予測しようとしているように、ここでは10万年後の地形を予知するという目標を立てた.これまでに蓄積された地形学の知識は数式あるいはロジックで表現されているというわけではないので、いろいろ困難は多いが、比較的知識の蓄積が多い過去10万年を目標とした.さらに単なる形態模写ではなく、物質の移動に基礎をおくシミュレーションを目指すことにした.シミュレーションに必要なのは地形変化現象の数値モデル化、モデルとは独立な初期条件・境界条件、およびモデルの中で使われるパラメータの値である.このパラメータは位置が持つ属性やその時間変化として具体的に、その値が与えられる必要がある.<BR><BR>初期条件:<BR> 筑波山および周辺地区の10m-DEM(北海道地図作成)から一辺10mの正六角形DEMを作って使用した.筑波山を200m水没させて架空の島とし、初期条件とした.海面低下時に陸上と同じ詳細な地形データが必要なためである. <BR><BR>境界条件:<BR> 海面変化(気候変化)、地殻運動、火山灰降下を境界条件とした.いうまでもなく海面変化および気候変化は局地的な地形発達とは独立であり、過去10万年の変化がもう一度繰り返されるとした.これはかなり蓋然性の高い仮定であると考えている.一般に地殻運動は段丘形成・分布に大きな影響があることが知られているので、その効果を見るために、間欠的ではあるが長期的には定速な傾動運動を与えてみた.火山灰の降下はこのシミュレーションには必須ではないが、地形面の年代確定のために、間欠的に起こるとした.<BR> 地形変化現象のモデリングとパラメータ: 斜面では拡散モデルで表現される従順化と間欠的かつ確率的な斜面崩壊があるとした.河川では河床礫の摩耗を伴う拡散現象としての砂礫セディメント移動と間欠的に起こる洪水による移動があるとした.海岸付近では波の方向と離岸流の方向、波食限界深などを仮定した.また海食崖の後退については、受食される海食崖の高さ・崖前面の水深の限界などに仮値を与えた.離岸流による物質移動については深さに反比例する拡散係数を持つ拡散現象であるとした.<BR> なお陸上の拡散現象にかかわる拡散係数は岩相と気候で変わるものとした.岩相は基盤岩と軟弱層堆積物に2分し、気候は氷期と間氷期の2時期に分けそれぞれ異なる値を与えた.斜面および河川の堆積物については、現実地形についての計測値を取り入れた.間欠的に起こる現象については台風や梅雨の集中豪雨の頻度を参考に妥当な値を与えた.<BR><BR>シミュレーションの実施:<BR> このシミュレーションでは質量保存則は厳重に守っているので、物質移動によってのみ地形変化(高度変化)が起こるという地形学の大原則は満たされている.そこで、斜面から河川・海へ領域を越えて移動する砂礫フラックス、および河川から海に移動するフラックスを集計してモニタリングした.これらの量は陸地の平均浸食深(速度)そのものである.また拡散係数が基盤岩と堆積物で大幅に変わることから、斜面および河床における基盤岩露出率もモニタリングした. <BR> 斜面および河川における拡散現象については計算を毎年行うことにし、それに先立ち落水線の探査と流域面積の計算を行い、斜面・河川・海岸の3領域を設定した.隔年発生現象については該当年に達したとき、その現象を記述する関数を呼び、それによる地形変化を計算し、500年ごとにそのときの地形、陰影図などを出力させた.<BR><BR>結果:<BR> 陰影図は201枚となるので、これを動画化して10万年間の地形変化を観察した.時間を短縮して、普段は「動かざる大地」を変化するものとして観察するメリットは大きい.もちろん、シミュレーションプログラム開発の過程で、この観察に基づいて、地形学的に許せない変化が起きていないかなどを観察しながら、試行錯誤的にアルゴリズムやパラメータを修正してきた.最終的には不自然なフラックス調整は必要なかった.

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