- 著者
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高村 弘毅
小玉 浩
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2006, pp.4, 2006
1.降雨・地下浸透蒸発観測システムの概要<BR> この装置は、降雨による雨水の蒸発量、浸透量を計るライシメータおよび気象観測システムで構成されている。<BR> 立正大学熊谷キャンパス内林地に、縦2.5m、横1.2m、深さ1.6mの穴を掘り、そこにステンレス製のライシメータカラム(1m×1m×1.4m)を電子天秤上に設置し、現場の関東ローム層土壌を充填した。電子天秤の最大計量可能重量は3000kgで、分解能(最小目盛り)は降水量1mmに相当する1kgである。ライシメータの表面積が1m<SUP>2</SUP>であるので、1kgの重量減少は、カラムの底からの排水がみられない場合蒸発高は1mmとなる。 <BR>ライシメータカラムには、上部より200mm間隔に、水分センサー(TDR)、地温センサー(サーミスタ)、EC(電気伝導度)センサー、pHセンサーの4種類、各6本を挿入した。ライシメータカラムの底には浸透量観測用として、内径20mmのパイプの中心が底より40mmの位置に横向きに取り付けてある。 気象観測システムは、2.5mのポールに、風向・風速計、純放射計、温度計、湿度計、雨量計が取り付けてある。上記の各種データをデータロガにより任意の時間間隔でデータを記録することができる。解析に用いたデータは1時間間隔である。<BR>2.観測結果<BR> 2004年3月30日午後4時から31日午前3時までに降った計34mmの雨について、ライシメータカラム内の土壌水分の変化をみると、深度の浅いところから変化し、深度120cmではほとんど変化が認められなかった。pHは、深度40cmではpH6.4から6.8の間で変化。深度80cmではpH7.4前後を示し、各深度のなかで最も高かった。深度100cmではpH6.4から6.8の間で変化し、深度120cmではpH6.0前後で変化した。電気伝導度も深度80cmが最も高くなっており、この深度に水質の変換点が存在している。地温は、深度の深いところが低く、深度の浅いところが高くなっている。また深度20cmでは、地温の日変化がみられる。深いところでは、上昇傾向ではあるが、顕著な日変化はみられない。 <BR> 台風接近による大雨時の観測データの分析結果について述べる。2004年10月8日午前11時から9日午後7時までの降雨191.5mm(台風22号)と、2004年10月19日午前11時から21日午前7時までの降雨121.5mm(台風23号)について解析した。電気伝導度は、深度60cm以外、雨量が増えると増加し、その後減少、ある一定以上の雨量になると変化がなくなり約100μS/cmに集まる。台風22号では降り始めからの降水量が115.5mmに達した時点で、台風23号では降り始めからの降水量が117.0mmに達した時点で集束状態みられる。深度100cmのみ電気伝導度がやや低い傾向にあった。<BR> 地温についてみると、台風22号と23号接近時ではかなり違う傾向を示した。台風22号接近時では、地温は日射が遮られるとともに減少し、降雨が止むと上昇に転じた。深度20cmでは、興味深い温度変化があらわれている。降雨強度が時間あたり10mmを超えると、減温傾向から反転し一時的に上昇する。台風23号接近時は、全体として増加傾向を示すが、深度20cmでは降雨強度の増加とともに急激に温度が上昇した。それ以外の深度では降雨にはあまり関係なく一定の増加率で温度が上昇した。<BR> 土壌水分の変化は、台風22・23号接近時とも類似の傾向を示した。深度が浅いところほど速く、また変化率も浅いところほど降雨に速やかに反応する傾向にあった。しかし、深度80cmと100cmの観測値に着目すると、反応の早さ、変化率の激しさが深度順とは逆転する現象がみられた。 <BR> 本研究は、立正大学大学院地球環境科学研究科オープンリサーチセンター(ORC)「プロジェクト3『環境共生手法による地下水再生に関する研究』」の一環として実施したものである。