- 著者
-
和田 崇
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.33, 2009
「セカンドライフ」は,従来のインターネット・サービスと比べて,表現の幅と活動の幅が大きく広がったとされる(山口,2007)。本研究は,「セカンドライフ」にみられる表現の幅と活動の幅の拡大が,従来のインターネット上でのコミュニケ―ションの方法や社会的ネットワークの構造や形成過程,さらにサイバースペースとジオスペースの相互関係をどのように変化させているかという点について論じることを目的とする。3D仮想空間は独自のコミュニケーション環境を持つ空間であり(山口・野田,2008),それを生み出す独自機能として,アバター,チャット,自己組織化,の3点をあげることができる。自己表現,変身願望,着せ替え人形としてアバターは,それ自体を話題にできることや文字以外に表情やしぐさで表現できることから,利用者間のコミュニケーションを活発にする働きがあるとされる。チャットはコミュニケーションの同期性は高いが,情報の蓄積性が乏しい。自己組織化とは利用者の行動と相互作用がその空間構造や社会規範を規定していくことをいう。2001年にプロトタイプが開発され,2003年6月に商用サービスとなった「セカンドライフ」では,上記に加え,仮想空間内の瞬間移動,持ち物の所有・管理,友達の設定,コミュニティの形成,土地の所有,オブジェクトの作成と著作権の付与,仮想通貨リンデンドルの付与および支給,仮想通貨リンデンドルとアメリカドルの交換などの機能・サービスが提供されている。「セカンドライフ」の利用者数は,2006年の約10万人から2007年5月には約650万人に急増した。そのうち日本人の利用者数は約4万人(2007年5月)と言われる。インターネットメディア研究所が2007年に実施した日本人の利用動向調査によると,利用者の年齢は20代後半から30代が中心である。利用者の居住地は関東地方が突出する。職業はほとんどが社会人で,しかもITリテラシーが高いと思われる層の利用が多い。しかし,継続的な利用は初期登録者の1/4程度といわれ,利用が定着しない理由として,全体像がつかみにくいこと,楽しみ方がわかりにくいことなどが指摘されている。その中で,継続的に利用するようになった者は,仮想街の見物,知人や初対面の人とのチャット,買い物,オブジェクトの作成,ダンス,イベント参加など,様々な方法により「セカンドライフ」で長い時間を過ごしている。また,日本人や日本企業の利用を支援する仮想市民ネットワークやコンサルタント企業も存在する。「セカンドライフ」は世界中からアクセス可能で,「セカンドライフ」内では国・地域の境を越えて利用者同士が仮想的に接近・接触したり,コミュニケーションしたりすることができる。そのため,ジオスペースとは無関係に思われる。しかし,次の5点において,「セカンドライフ」にも地理を見いだすことができる。第1は管理区域としての地域(「シム」)であり,設計者が設定したグリッド(緯度経度に相当)がその位置を規定する。第2は「セカンドライフ」内に形成される仮想都市の存在である。AKIBAやOKINAWAといった日本人街の形成も進んでいる。これらは仮想空間に形成される地理といえる。第3はジオスペースの地域コンテンツの発信である。自治体や観光協会などが観光情報を提供するとともに,仮想体験を通じて,集客や販売の促進に結びつけようとしている。第4は特定地域の課題解決に向けた国や地域の境を越えた協力活動である。新潟県中越地震に関する募金活動などがその例である。第5は「セカンドライフ」内での対人関係の形成とジオスペースでの地域単位でのイベント開催である。これらはジオスペースにおける地理を反映している。このように,「セカンドライフ」にみられる地理は,仮想社会(サイバースペース)と現実社会(ジオスペース)が入り交じったものとなっている。また利用者は,仮想経験とジオスペースでの行動,およびそれぞれをベースとした2種類のコミュニケーションを展開している。