著者
村中 亮夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.100044, 2011

本研究では,横須賀鎮守府に次いで1889年に第二海軍区の鎮守府が設置された呉を事例に,呉の住民が呉の都市景観をどのように評価しているのかを分析することを目的とする.具体的には,景観の持つ価値の経済的側面を議論することができる仮想評価法(CVM)と,人間が景観に対して持つ意識を構造的にモデル化できる構造方程式モデリング(SEM)を応用し,近代期に形成された軍港都市としての歴史的背景を持つ呉の歴史的景観を保全することに対する地域住民の支払意思額(WTP)から,呉の歴史的景観を後世に継承することに対する住民の意識構造をモデル化することに取り組む.本研究では,呉の住民の歴史的景観保全に対するWTPの背景を探るため,歴史的景観に関する社会調査を実施し,その調査から得られた歴史的景観の持つ価値に関する5変数,歴史的景観の持つ機能に関する6変数,居住地域での暮らしに対する意識に関する2変数,回答者の居住年数・所得・職業を表す変数が,WTPに対してどのような因果関係にあるかをSEMを利用して検討した.分析の結果は,以下のようにまとめられる.?@歴史的景観に関する意識がWTPに対して与える影響については,歴史的景観の持つ機能に対して高く評価する者ほど,歴史的景観の持つ価値に対して高く評価し,高いWTPを表明していることが示された.歴史的景観の持つ機能と価値がそれぞれWTPに対して与えている総合効果にはほとんど差はみられず,歴史的景観の持つ機能と価値に対する意識はほぼ等しい程度にWTPに対して影響を与えていることが示唆された.?A居住地域での暮らしに対する意識がWTPに対して与える影響として,居住地域での暮らしに対して高い意識を持っている者は歴史的景観の持つ機能や価値に対する高い意識を介して,高いWTPを表明していることが示された.この居住地域での暮らしに対する意識がWTPに対して与える影響は,歴史的景観に関する意識がWTPに対して与える影響の約8割5分程度であり,WTPに対して与える影響としては,歴史的景観に関する意識のほうが強い効果を持っていることが示された.?B社会経済的地位や居住地域の居住年数に関する変数については,居住年数や所得,職業のいずれの変数も有意な変数とならなかった.本研究では,普段の生活に身近な景観を保全するという生活に身近な政策課題であったため,居住年数や所得階級,職業間においてWTPの表明に差が認められなかったものと推察される.

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軍港都市における景観保全に対する住民の意識構造 https://t.co/CTm93rjrtQ

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