著者
埴淵 知哉 村中 亮夫 安藤 雅登
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.81-98, 2015-01-01 (Released:2015-10-08)
参考文献数
35
被引用文献数
7 17

社会調査環境の変化を受けて,廉価で迅速にデータを収集できるインターネット調査に注目が集まっている.本論文では,標本の代表性と測定の精度という二つの側面からインターネット調査の課題を整理するとともに,実際に行われた調査データを用いて,回答行動,回答内容,そして地理的特性について分析した.その結果,インターネット調査における標本の偏りや,「不良回答」が回答時間と関連していることを確認し,地理的特性がそれらと一定の関連をもつことを指摘した.さらに,地理学における今後のインターネット調査利用の課題と将来の利用可能性について考察した.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 村中 亮夫 花岡 和聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.97-113, 2018-01-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1

近年の国勢調査においては,未回収や未回答に起因する「不詳」の増加が問題になっている.本研究は,小地域レベルの「不詳」発生における地理的特徴を探り,地域分析への影響と対処法について検討することを目的とした.2010年国勢調査を用いて「年齢」,「配偶関係」,「労働力状態」,「最終卒業学校の種類」,「5年前の常住地」に関する不詳率を算出し,都市化度別の集計,地図による視覚化,マルチレベル分析をおこなった.分析の結果,「不詳」発生は都市化度と明瞭に関連していると同時に,市区町村を単位としたまとまりを有していることが示された.このことから,国勢調査を用いた小地域分析において「不詳」の存在が結果に与える影響に留意するとともに,今後,「不詳」発生の傾向を探るための社会調査の実施や,データの補完方法についての基礎研究を進める必要性が指摘された.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 村中 亮夫 花岡 和聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.447-467, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
33
被引用文献数
1 4

社会調査の回収率は,標本から母集団の傾向や地域差を適切に推定するための重要な指標である.本研究では,回収率の地域差とその規定要因を明らかにすることを目的として,全国規模の訪問面接・留置調査を実施しているJGSS(日本版総合的社会調査)の回収状況個票データを分析した.接触成功および協力獲得という二段階のプロセスを区分した分析の結果,接触成功率・協力獲得率には都市化度や地区類型によって大きな地域差がみられた.この地域差は,個人属性や住宅の種類などの交絡因子,さらに調査地点内におけるサンプルの相関を考慮した多変量解析(マルチレベル分析)によっても確認された.したがって,回収状況は個人だけでなく地域特性によっても規定されていることが示された.しかし,接触成功率・協力獲得率には説明されない調査地点間のばらつきが残されており,その理由の一つとして,ローカルな調査環境とでも呼びうる地域固有の文脈的要因の存在も示唆された.
著者
村中 亮夫 中谷 友樹 吉岡 達生
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.87-98, 2007-02-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
43
被引用文献数
3 1

本稿では, 山口県岩国地域の高校生を対象とし, アレルギー性鼻炎有病率の地域差を, 居住地―通学先関係から分析した. 分析資料としては, 耳鼻科検診時の問診・視診結果を利用した. ロジスティック回帰分析による結果, アレルギー性鼻炎所見の有無に対して, 通学パターン, ぜん息の既往症, 家庭内の受動喫煙が影響を与えていることが明らかになった. アレルギー性鼻炎有病率の地域差については, 高校生の居住地を基準としてはみられなかったが, 高校生の通学先を基準とした場合には, 市部の高校への通学生は郡部の高校への通学生に比べ有病率が有意に高かった. この結果から, 市部の高校への通学生は, 日中の生活時間の多くを費やす高等学校周辺の地域において, アレルギー性鼻炎にかかるリスク要因となる環境に人体が暴露されている可能性が示唆された.
著者
村中 亮夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.13, pp.903-923, 2004-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
6 5

本稿では,面的に偏在する空間財を評価する仮想市場評価法 (CVM) として,支払意思額 (WTP) を距離帯別仮想市場から推定する方法論を提示した.この手法を用いて,スギ花粉飛散量の減少による健康リスクの削減を意図した,スギ人工林整備の便益を評価した.その結果,便益に対するWTPは,世帯年収の影響を受けていることがわかった.そして,所得変数による便益移転評価モデルを用いて便益移転を行うと,山口県におけるスギ人工林整備事業(2002~2011年度)の便益は,山口県民にとって約144億円(現在価値化)の効果が期待できると推定された.このスギ人工林単位面積当たり便益は,スギ人工林密度の低い地域,世帯密度の高い地域で高くなる.また,便益の値は,スギ人工林密度の高い地域の中でも,世帯密度の高い山陽側で高いことがわかった.この推定便益は県林業費の約2割を占めている.
著者
村中 亮夫 瀬戸 寿一 谷端 郷 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.492-507, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
26

本稿では,地域の防災・安全情報が記載されたWebマップをベースとした安全安心マップ(Web版安全安心マップ)について,利用者の活用意思とそれを規定する心理的な要因を分析した.分析資料としては,京都府亀岡市篠町のWeb版安全安心マップについて,紙地図ベースの安全安心マップ(紙地図版安全安心マップ)との対比から得られた利用者評価のデータを利用した.分析の結果,Web版安全安心マップでは紙地図版安全安心マップと比較して高い活用意思が表明され,Web版マップを積極的に活用する意義が示された.また,Web版マップを活用する意思の心理的な要因を検討する構造方程式モデリングの結果,Web版マップの利便性やそれを通して得られる地域の危険/安全箇所に関する認識の深まりの度合い,マップに掲載されている情報の充足性が,Web版マップの活用意思に正の影響を与えていることが示された.
著者
村中 亮夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.195-210, 2002-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
42
被引用文献数
4 4

本稿では,環境の計量的評価手法であるCVMにより,棚田の持つ景観形成機能の経済的評価を行った.評価対象は「高知県高岡郡梼原町神在居地区に卓越する千枚田 (2.1 ha) の,梼原町民にとって2001~2020年度に期待される景観形成機i能(公共財L)」である.調査の結果,公共財Lは約2800万~4800万円と試算され,その経済的価値は「審美的」,「実利的」価値観および家計の経済的負担能力によって規定されていることがわかった.また,公共財Lの経済的価値は空間的にみると公共財Lからの距離減衰性を示し,公共サービスの外部経済効果の距離減衰効果と対応することがわかった.この便益の分析結果を基に費用便益分析を行ったところ,短期的な費用便益の均衡は見込まれず,公共財Lの管理に関する議論には,遺贈価値(将来世代へ遺贈すべき価値)を前提とした世代を超えた長期的な視点が必要であることが裏付けられた.
著者
村中 亮夫 中谷 友樹 埴淵 知哉
出版者
一般社団法人 地理情報システム学会
雑誌
GIS-理論と応用 (ISSN:13405381)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.127-137, 2011-12-31 (Released:2019-02-28)
参考文献数
35

The aim of this paper is to examine regional differences in the prevalence of pollinosis by social area type in a geodemographics dataset by carrying out binomial logistic regression analysis on the 2002-2006 Japanese General Social Surveys (JGSS) data. The results indicate that people living in rural areas and working in the agriculture and forestry industries are less prone to contracting pollinosis, and people with a higher household income have a higher risk of contracting the disease compared to those with a lower household income. These findings are consistent with the hygiene hypothesis that sanitary environments impair normal development of immunity and increase the risk of contracting allergic diseases. This study also exemplifies the usefulness of geodemographics as a concise indicator of the local environment for explanatory analysis of environmental health risks of pollinosis.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 花岡 和聖 村中 亮夫
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.71-84, 2012-07-28 (Released:2017-04-14)
参考文献数
28
被引用文献数
3

This paper is aimed at examining the association between the degree of urbanization/suburbanization and the levels of social capital in quantitative terms. We performed a multilevel analysis for the data from JGSS (Japanese General Social Surveys) conducted in 2000-2003. The results showed that the respondents who resided in rural municipalities (i.e., the least urbanized areas) were more likely to belong to groups, for both vertical and horizontal types of organizations, compared to those who lived in the center of large metropolitan areas. However, no differences were seen between urban centers and suburbs within these metropolitan areas studied. In addition, the indicators of general trust and attachment to place did not exhibit significant associations with the index of urbanization! suburbanization. On the contrary, many individual attributes were related to social capital indices; suggesting that the individual/compositional factors may determine the levels of social capital more clearly than the regional/contextual factors. Since our study used the indicators of "global social capital", which do not refer to geographical aspects of social networks or trust, analyzing "local social capital" is necessary in future studies.
著者
村中 亮夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.100044, 2011

本研究では,横須賀鎮守府に次いで1889年に第二海軍区の鎮守府が設置された呉を事例に,呉の住民が呉の都市景観をどのように評価しているのかを分析することを目的とする.具体的には,景観の持つ価値の経済的側面を議論することができる仮想評価法(CVM)と,人間が景観に対して持つ意識を構造的にモデル化できる構造方程式モデリング(SEM)を応用し,近代期に形成された軍港都市としての歴史的背景を持つ呉の歴史的景観を保全することに対する地域住民の支払意思額(WTP)から,呉の歴史的景観を後世に継承することに対する住民の意識構造をモデル化することに取り組む.本研究では,呉の住民の歴史的景観保全に対するWTPの背景を探るため,歴史的景観に関する社会調査を実施し,その調査から得られた歴史的景観の持つ価値に関する5変数,歴史的景観の持つ機能に関する6変数,居住地域での暮らしに対する意識に関する2変数,回答者の居住年数・所得・職業を表す変数が,WTPに対してどのような因果関係にあるかをSEMを利用して検討した.分析の結果は,以下のようにまとめられる.?@歴史的景観に関する意識がWTPに対して与える影響については,歴史的景観の持つ機能に対して高く評価する者ほど,歴史的景観の持つ価値に対して高く評価し,高いWTPを表明していることが示された.歴史的景観の持つ機能と価値がそれぞれWTPに対して与えている総合効果にはほとんど差はみられず,歴史的景観の持つ機能と価値に対する意識はほぼ等しい程度にWTPに対して影響を与えていることが示唆された.?A居住地域での暮らしに対する意識がWTPに対して与える影響として,居住地域での暮らしに対して高い意識を持っている者は歴史的景観の持つ機能や価値に対する高い意識を介して,高いWTPを表明していることが示された.この居住地域での暮らしに対する意識がWTPに対して与える影響は,歴史的景観に関する意識がWTPに対して与える影響の約8割5分程度であり,WTPに対して与える影響としては,歴史的景観に関する意識のほうが強い効果を持っていることが示された.?B社会経済的地位や居住地域の居住年数に関する変数については,居住年数や所得,職業のいずれの変数も有意な変数とならなかった.本研究では,普段の生活に身近な景観を保全するという生活に身近な政策課題であったため,居住年数や所得階級,職業間においてWTPの表明に差が認められなかったものと推察される.
著者
村中 亮夫 中谷 友樹 埴淵 知哉
出版者
一般社団法人 地理情報システム学会
雑誌
GIS : 理論と応用 = Theory and applications of GIS (ISSN:13405381)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.127-137, 2011-12-31
参考文献数
36

<p>The aim of this paper is to examine regional differences in the prevalence of pollinosis by social area type in a geodemographics dataset by carrying out binomial logistic regression analysis on the 2002-2006 Japanese General Social Surveys (JGSS) data. The results indicate that people living in rural areas and working in the agriculture and forestry industries are less prone to contracting pollinosis, and people with a higher household income have a higher risk of contracting the disease compared to those with a lower household income. These findings are consistent with the hygiene hypothesis that sanitary environments impair normal development of immunity and increase the risk of contracting allergic diseases. This study also exemplifies the usefulness of geodemographics as a concise indicator of the local environment for explanatory analysis of environmental health risks of pollinosis.</p>
著者
村中 亮夫 埴淵 知哉 竹森 雅泰
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.1-11, 2014
被引用文献数
1

近年,社会調査における個人情報の保護に対する関心が高まっている.本稿では,日本における近年の社会調査環境の変化によってもたらされた個人情報保護の課題と新たなデータ収集法について解説することを目的とする.具体的には,①社会調査データを収集・管理するにあたって考慮すべき住民基本台帳法や公職選挙法のような法制度の変化や調査倫理,①個人情報そのものを取り扱うことなく調査データを収集できるインターネット調査データや公開データの仕組みのようなデータ収集法の活用可能性に着目した.
著者
村中 亮夫 埴淵 知哉 竹森 雅泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.1-11, 2014 (Released:2014-09-17)
参考文献数
32
被引用文献数
2 1

近年,社会調査における個人情報の保護に対する関心が高まっている.本稿では,日本における近年の社会調査環境の変化によってもたらされた個人情報保護の課題と新たなデータ収集法について解説することを目的とする.具体的には,①社会調査データを収集・管理するにあたって考慮すべき住民基本台帳法や公職選挙法のような法制度の変化や調査倫理,①個人情報そのものを取り扱うことなく調査データを収集できるインターネット調査データや公開データの仕組みのようなデータ収集法の活用可能性に着目した.
著者
瀬戸 寿一 村中 亮夫 谷端 郷 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.121, no.6, pp.946-961, 2012-12-25 (Released:2013-01-07)
参考文献数
27

This study explores how to use geospatial information for residential safety and security activities, such as patrolling a community, from the perspective of PPGIS. The study takes Shino-town, Kameoka City as a case study, where a neighborhood community association held a workshop in 2009 for residents to collect geospatial information for use in disaster prevention and daily security. Because they made a hard-copy “Safety-security Map,” we first converted it into a web-based map with functions that help a user prepare a walking route using Google Maps API. Using the web-based map, some Kameoka residents developed routes for patrolling the community. Then, we walked through the routes with them, conducting interviews on how they felt about risks and attractive features along the routes. Analyzing the results of the field research and interviews, we identified substantial differences in risk perception and interest in the possibility of using web-based safety-security maps by local community residents. Compared to the male representative group of the residents' association, female members of the welfare commission and the PTA representative group were more interested in community safety and disaster prevention information, and the web-based map containing information. They hope to use the web-based map to exchange information among residents. Besides, they showed a keen interest in using the web-based map for walking exercise to raise their awareness of community-safety and disaster-prevention information on a daily basis. It is vital to integrate different interests and needs for safety-security geospatial information of local resident groups to carry out effective residential safety and security activities.