著者
田上 善夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.53, 2004

_I_ はじめに 中世以降,近世を中心に開創された地方霊場の多くは現在も存続するとともに,さらに新たな開創が続いている。こうした地方霊場の種類,開創年代,範囲,巡拝路の形態,さらに霊場数あるいは霊場密度などには,全国的に差異がみられる。地方の三十三観音霊場などでは,観音像は本堂でも脇侍とされたり,境内の観音堂にまつられたりする。さらに堂庵や神社,石塔などのことも多い。そもそも霊場はその起源においても仏教のみならず修験との深いかかわりが認められ,神仏習合のもとでは観音を本地とする神社も多いため,札所は神社の内や隣接することも多く,さらに背景に民間信仰が認められるものも多い。_II_ 霊場と寺社の調査 北海道から北陸に至る北日本において,主要な地方霊場について施設や景観などを調べるとともに,それらの分布と関連する寺社などの分布との比較をとおして,霊場の開創の要因や経緯などについて明らかにする。まず,歴史が古く代表的な霊場を選び,霊場および札所寺院の位置や景観,宗派などの特色を,現地調査にもとづいて明らかにする。次に,現在の宗教法人の寺院の主要宗派別の分布を明らかにし,それとともに著名神社を選んでその分布も明らかにする。さらに主要仏教宗派の分布が成立した経緯や,著名神社の成立の経緯などにもとづいて,霊場開創地域の宗教的基盤の特色を明らかにする。さらに,それらを通して明らかにされた地方霊場開創にかかわる要因の中から,とくにかかわりが深い山岳信仰について分析を加え,霊場の開創とその地域的差異の検討を試みる。_III_ 地方霊場と寺社分布 各県ほどの規模の霊場では,札所はおよそ平野や盆地の縁である山麓にみられ,札所は岩や沢の傍らなどに設けられている。札所として,真言系寺院をはじめ,天台系や禅系の寺院が多く選ばれているが,修験の寺院もあり,神社境内にある観音堂のこともある。寺院は当該地域の南西部では浄土系,北東部では禅系などが多く,平野では浄土系,山地側では禅系,天台系,真言系が多い。この天台系・真言系寺院は古くから進出し,霊場と深くかかわり,禅系寺院も霊場とのかかわりを保つ。一方神社は,当該地域には八幡社が広く分布し,稲荷社は北部に多く,神明社は南部に,熊野社は内陸部に多い。_IV_ 山岳信仰の影響 とくに熊野社は,熊野三山や天台系と結びつき,霊場とかかわりが深い。もともと巡礼では札所のほかに多くの霊山が参詣されており,巡礼には山地での修行が含まれる。 廻国巡礼は富山では立山に至り,西国・坂東・秩父巡礼は出羽三山参詣と類似のものとみなされていた。東北地方北部でも,地方霊場は山岳霊地に連なり,お山参詣は修験の影響を受けて,山岳信仰の要素を含んでいる。霊場と結びつく,天台系・真言系や熊野社などが深く結びついており,これらは開創年代が古く,周辺に位置し,とくに観音とかかわっている。さらに修験や山岳信仰と結びついており,それらは霊場の基本的性格を形成したと考えられる。

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