- 著者
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小池 拓矢
菊地 俊夫
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2016, 2016
<B>1. はじめに</B><BR> ジオパークを訪れた人びとは火山や海洋、河川などの営力によって形成されたダイナミックな景観を目にすることになる。これらの景観はジオパークの来訪者に大きなインパクトを与えるコンテンツである。よって、どこでどのような景観が来訪者に評価されたのかを検討することは、ジオパークの管理や運営をする上で重要である。そこで、本研究は伊豆大島で行われたジオツアーを事例として、ジオツアーの参加者がどこでどのような景観を評価しているのかを明らかにする。<BR> 伊豆大島は東京の都心の南方に位置しており、2010年10月に「伊豆大島ジオパーク」として認定された。伊豆大島には玄武岩質の成層火山である三原山をはじめとしたジオサイトが存在する。<BR><B>2. 研究方法</B><BR> 本研究は、首都大学東京の都市環境学部自然・文化ツーリズムコースで開講された野外実習における伊豆大島でのジオツアーに対して調査を行った。ジオツアーは2015年6月30日に行われ、これに参加した学生13名に調査に協力してもらった。<BR> ジオツアー参加者の景観評価を明らかにするために、本研究は参加者がツアー中に撮影した写真を分析するVEP(Visitor Employed Photography)という手法を用いた。参加者にGPS機能付きのデジタルカメラを貸与し、ツアー中に自由に写真を撮影してもらった。ジオツアーは2つのグループに分かれて行われ、それぞれのグループにガイドが1人ずつ付いて学生を案内した。2名のガイドが行ったインタープリテーションの内容をICレコーダーで記録し、インタープリテーションと景観評価の関係性について考察した。ジオツアー終了後には、参加者に撮影した1枚1枚の写真の撮影対象などを問うアンケートを行った。このアンケートでは、撮影対象のほかに、それぞれの参加者が気に入った写真5枚を選んでもらい、これらについても分析の対象とした。<BR><B>3. ジオツアー参加者の景観評価</B><BR> VEPを用いた調査を行った結果、一方のグループ(参加者7名)からは694枚の写真が、もう一方のグループ(参加者6名)からは581枚の写真が得られた。両グループともに地形景観や地質資源の写真がよく撮影されており、これらの写真の撮影地点に対してカーネル密度推定を行った結果、写真撮影が集中して行われた場所はすべてガイドによるインタープリテーションが行われた場所であった。ただし、その集中がみられた位置はグループごとに多少の違いがみられた。<BR> 次に、ツアー参加者が選好した写真についての分析を行った。参加者によって撮影されたすべての写真の撮影対象と比較して、参加者が選好した写真は人間を撮影したものの割合が大きかった。以上の結果から、ツアー参加者はあくまで記録として地形や地質に関する写真を撮影するが、記憶に残りやすいのは友人との楽しい時間の思い出であると考えられる。ツアー参加者に楽しかった記憶や満足した記憶が残れば、その地を再度来訪したり、他人に来訪を薦めたりする可能性は高くなる。<BR> 起伏に富んだ地形や非日常的な自然景観を利用して、人物のユニークな写真を撮影できるのがジオパークの特徴であり、ジオパークのガイドはツアー参加者にこれらの地質的・地形的資源を「観察」させるだけでなく、「体感」させるようなインタープリテーションを行うことが重要であるといえる。菊地・有馬(2011)はジオツーリズムの役割として、「広く一般に地形・地質や地球科学の知見が楽しく有意なものだと認識してもらうことがより重要である」と述べている。本研究の結果も、ジオパークにおけるインタープリテーションはただジオサイトに関する情報を提供するだけではなく、楽しさを同時に伝えることが必要なことを示唆していた。