著者
大西 宏治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

地形図を読図し、地形図上の事象と眼前の景観を対照させて地域を観察することができる技能を育てることは重要である。しかしながら、地形図を読図することは教室の中でできても、景観と対照させる機会をもつことは難しい。また、地形図と景観を対照させる題材をみつけ、生徒を景観の広がるところに連れ出しても、一斉授業で行おうとすると次のような問題が生じる。眼前の景観と地形図とを対照させることを教示することがそれほど容易ではないことである。教室内の読図では地域の状態がそれなりに理解されているにもかかわらず、目の前に広がる風景と地形図がすぐには比べられず、その指導に多くの時間がとられてしまう。このような問題を解決することができるのがAR(拡張現実)を用いた地形図読図の授業である。今回用いたソフトウエアJunaioはスマートフォンやタブレット上で動作するものである。GISとGPS機能と連動し、あらかじめデジタル地図上に緯度経度で地点を登録すると、スマートフォンなどを景観に向けるとエアタグで登録した地点を景観上に示してくれる。この機能を活用することで、生徒に地形図の読図結果を景観上に確認する指導が容易になる。この機能が授業でどの程度有効で、どのような活用が可能なのかを実験授業を通じて検討することが本報告のねらいである。実験授業は富山高等専門学校商船学科および国際ビジネス学科の1年生(商船学科41名、国際ビジネス学科52名)を対象に実施した。高等専門学校1年生は学齢的には高等学校1年生と同等である。授業は必ずしも学習指導要領に縛られるものではないが、高等学校地理Bの教科書を利用しながら「地理」の授業を行っている。1授業が90分間である。授業テーマは放生津潟の開発と土地利用変化と設定した。放生津潟の大規模開発による富山新港設置について検討する授業を実施する。地形的な特徴と土地利用の変化を考えるためにAR技術を援用する。特に地盤高をARで確認し、大規模改変の詳細を考える授業を実施した。授業は次のように実施した。授業は連続して3時間ではなく、前期に1、2回、後期の3回目を実施した。<br>第1回:海岸地形に関する授業、第2回:放生津潟周辺の地形図の新旧比較、第3回:ARを用いた景観と地形図の比較、である。射水キャンパスは富山新港に近く、学校周辺の土地利用変化やその意味を考えることにつながる授業である。このキャンパスには商船学科があり、展望塔が設置されている。そのため、北陸の冬季の悪天候の中でも屋内から景観と地形図を比較する授業が実施できる。特に第3回の授業について記述する。授業の冒頭10分でAR技術とJunaioの使い方を説明した。次に端末数が限られるため、各クラスとも14名ずつに分け、展望塔に移動し、そこで地図と景観を比較する授業を実施した。教室に残る生徒には、本授業に関するワークシートの作業をさせた。<br>(1)新旧地形図上にエアタグの位置を記入、(2)新旧地形図から新たに造成した地域を確認、(3)工場の立地地点の特色の検討。授業を実施した結果から、生徒たちは地図とARでわかる情報を組み合わせることが容易にでき、地域の理解が進んだという感想が多く見られた。また、ARを利用したのち、地形図の理解が進んだというものも見られる。授業にAR技術を活用することで景観を利用した地理授業が一定程度効果的に実施することができることがわかった。しかしながら、機器の利用についていくつかの課題がある。たとえばデジタルコンパスはあらかじめ十分に準備しないと利用できない。また、景観と地図を対応させる十分に効果的な課題を授業で設定できるのかという点である。これらについてさらに検討が必要である。<br>

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? 教育におけるGIS/ARシステムの活用:富山高等専門学校射水キャンパスでの景観と地形図との比較の授業(大西 宏治),2016 https://t.co/fIn5iemccJ 地形図を読図し、地形図上の事象と眼前の景観を対照さ…

収集済み URL リスト