著者
小池 俊雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

1.鬼怒川水害<br><br>2015年9月のの関東・東北豪雨で発生した鬼怒川水害では、24時間最大雨量記録が311mmから410mmへと大きく塗り替えられた。<br><br>河川管理者から自治体責任者へは、氾濫危険情報や水位の上昇に関する情報や、避難情報の発令や浸水想定区域図の活用についての示唆も提供されていたが、広い地域にわたって破堤前に避難指示は出されなかった。また鬼怒川が洪水流で満杯となった映像が実況中継されてはいたが、避難することなく屋内に留まった住民は多く、結果として、氾濫流に取り残された住民1300人余りがヘリコプターで、また3000人ほどが地上部隊によって救出される事態となった。<br><br>&nbsp;<br><br>2.リスクの変化<br><br>2014年にまとめられたIPCCの第5次評価報告では、大雨の頻度、強度、降水量の変化の将来推定に関して「中緯度の大陸のほとんどと湿潤な熱帯域で可能性が非常に高い」と記述されており、2007年の第4次評価報告に用いられた「可能性が非常に高い」をより詳しく表現している。これらは気候の変化に伴い豪雨の増加に関する科学的知見が確かなものになってきている証左と言える。<br><br>明治期、鉄道網の普及により舟運の必要性が低下し、我が国の川づくりは洪水対策のための連続堤防の築堤が主流となり、国が一義的責任を有する河川管理体制が構築され、地先を守るという市民の当事者意識が低下して、社会サービスの受け手になり易い状況が作り出されている。その結果、危機感や責任感が低下し、施設整備による人的被害の減少とも相俟って、知識や経験だけでなく関心や動機も薄れて行動意図が低下するという事態の進行が心配されてきた。これは洪水に対する社会の脆弱性の悪化を意味している。<br><br>&nbsp;<br><br>3.リスクコミュニケーションの強化<br><br>このように鬼怒川水害は、災害外力と脆弱性の変化を明確に認識し、施設では防ぎきれない大洪水に対して、洪水リスク軽減のための社会的取り組みが必要であることを学ぶ機会となった。<br><br>これらの変化に対して、まずは災害外力の変化の理解を深め、災害に対する社会の脆弱性の特徴を理解し、健やかな生活を阻害する災害リスクを特定して、評価・モニタリング・予測する能力を高め、得られる情報が市民や行政に分かり易く伝えられ、地域の洪水リスクに関する知識、経験、危機感を共有が肝要である。<br><br>また、意思決定・合意形成の体制とマネジメント技術を積極的に導入して、立場や分野を超えて幅広い主体が参画して相互に情報を交換できる場を構築し、市民や行政の関心や動機を高める必要がある。その上で、地域全体を襲う災害による危機に対して、地域ぐるみで災害リスクの軽減と災害からの速やかに回復できる計画作りを進め、発災後も健やかな生活と健全な社会活動を行える地域全体としての事業継続能力の向上を目指して、スムーズな情報交換のためのガイドラインや指針、標準的な情報伝達手順を準備しなければならない。さらに地域の実情に合った訓練を重ねることも不可欠である。<br><br><br>参考資料:社会資本整備審議会大規模氾濫に対する減災のための治水対策検討小委員会資料, 2015.10.30

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