著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.108, 2011

I はじめに下北沢は演劇の街でありながら,近年では音楽ライヴを提供する店舗の集積により,音楽の街としての様相を呈してきている。毎年7月にはそのライヴ施設の集積を活かした「下北沢音楽祭」が開催されている。一方,下北沢の街はここ数年,「都市計画道路補助54号線」と駅前広場を含む「区画街路10号線」の建設計画をめぐって様々な動きが展開している。本報告では,下北沢でライヴ活動を行っているミュージシャンたちを取り上げ,かれらの下北沢との関わりについて考察する。特に,この建設計画をめぐる動きが顕著であった2005年を中心にミュージシャンたちのこの街との関わり方を明らかにしたい。II 音楽的社会関係2005年の5月に雑誌『SWITCH』は「下北沢は終わらない」という特集を組んだ。芸能界からは,この街で生まれ育った小池栄子,演劇界からは原田芳雄が登場し,作家の片岡義男はこの街を舞台とする短編小説を寄稿した。音楽界からは曽我部恵一やクラムボンの原田郁子,小島麻由美,UAなどのメジャー・アーティストが名を連ねているが,本報告で取り上げるのは,かつてメジャー・レコード会社との契約もしていたが,現在は下北沢の施設を含むライヴ活動を中心にしているミュージシャンたちである。また,本報告では具体的な社会運動としての下北沢再開発反対派の団体について詳細に報告することはしない。反対派の団体で代表的なのは「Save the下北沢」だが,ミュージシャンたちはそれらと緩やかに関係を持ったり,その主張に大枠で同意したりしているが,必ずしも自らが主体的に運動に参加するわけではない。むしろ,自分たちにできるのは音楽活動だけだと割り切っているともいえる。ただし,こうしたミュージシャンたちは明らかにこの街,下北沢に愛着を持っていて執着している。かれらはそれぞれ好んで定期的に出演しているライヴ施設を下北沢にもち,自ら企画するイヴェントも定期的に開催している。また本報告では報告者を含むオーディエンスの行動もたどっている。表1には,対象とするミュージシャンが2005年に行ったライヴ本数と下北沢での内訳を示した。かれらは,こうした特定の街でのライヴ活動を通して,ミュージシャン同士,ライヴ施設の経営者や従業員,そしてオーディエンスたちと関係を結ぶ。かれらのなかには下北沢周辺での居住暦を持つものもあり,仕事場として,居住地としてこの街と関わっている。朝日美穂が2005年11月にライヴ演奏で参加したイヴェント「シモキタ解体」は下北沢のタウン誌『ミスアティコ』が主催したもので,「Save the下北沢」の代表や,社会学者の吉見俊哉もトークセッションに参加したものである。III 街の音楽的風景朝日は単独で,HARCOは南風というグループへのゲストという形で,シリーズCD「sound of shimokitazawa」に参加している。特に,朝日の「ドットオレンジ模様の恋心」という楽曲は下北沢的要素をふんだんに盛り込んだもの。朝日は他にも下北沢のカレー店のドリンクメニューをタイトルにした楽曲もある。HARCOは2004年発売のCDに収録された楽曲「お引越し」のプロモーションヴィデオを下北沢中心に撮影している他,2002年発売のCD『space estate 732』の冒頭で,下北沢で賃貸住宅を探す青年に扮している。ハシケンは2006年から下北沢のライヴ施設「440」で隔月イヴェントを開催し,その集大成として制作したCD『Hug』(2007年)にはそのテーマソング「下北沢」が収録されている。そこではのんびりとしたテンポの曲に,自らの日常的行動のように,下北沢南口界隈をブラブラと歩く様子が描写されている。IV おわりに報告者はこれまで,文化的作品における場所の表象分析を通して,場所と人間主体のアイデンティティの関係について論じてきた。本報告では,作品自体の考察も含むが,そのパフォーマンスの場としての場所との関わり合いについても考察した。また,社会運動研究が明らかにしてきたような,場所に対する明確な帰属意識を有する共同性ではなく,下北沢という商品的街に相応しい緩やかな共同性によって,開発反対運動に同調する思想が共有されている。文 献中根弘貴 2010. 下北沢に創られる共同性の民族誌:ロックバンドと市民運動グループの繋がり.南山大学大学院2009年度修士論文(未入手)

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こんな論文どうですか? 人と街を繋げる音楽(成瀬 厚),2011 https://t.co/rqrkuMG5bn I はじめに下北沢は演劇の街でありながら,近年では音楽ライヴを提供する店舗の集積により,音楽の街としての様相を呈してきている。毎年7月…
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