- 著者
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伊藤 かおり
井上 公基
石垣 逸朗
- 出版者
- 日本森林学会
- 雑誌
- 日本林学会大会発表データベース
- 巻号頁・発行日
- vol.114, pp.214, 2003
1. はじめに 健全な森林や良質の木材を育成するためには、森林施業が不可欠である。また、林道を開設し森林施業を効率的に進める必要がある。しかし、林道開設にともなう伐採は、その周辺の水辺林の機能が損なわれている場合もある。また林業地帯では、河川の水際までスギ・ヒノキなどの針葉樹が植林され、水辺本来の植生が失われつつある。 水辺林の機能には、日射の遮断や倒木の供給、落葉・落下昆虫の供給、野生動物の生息環境の提供などがある。本研究では、林相の違いによる水辺林の機能を評価するために、広葉樹流域と針葉樹流域における、水温・水質・一次生産量・水生生物の種数を測定し、両者の比較検討を行った。2. 調査地概要 本調査地は、最上川支流である山形県村山市の樽石川の支流(T)と千座川の支流(S)を対象にした。Tの流域面積は141.5haであり、そのうちの97%が広葉樹林で占められている。渓畔域は、主にトチノキ・カツラ・モミジなどの樹種で構成され、それ以外はブナ林である。河川勾配は21.3%である。一方、Sの流域面積は79haであり、そのうち99%が針葉樹で占められており、河川の水際までスギが植林されている。河川勾配は6.7%である。3. 方法 T・Sの両支流にそれぞれ4ヶ所の測定地点を250m間隔毎に設置し、上流よりT1,T2,T3,T4とS1, S2,S3, S4とした。測定は2002年7月28日~12月3日の118日間行った。水温は、これら8地点で1時間間隔にエスペック社製のサーモレコーダーミニRT__-__30Sに記録した。また、日照はT3,T4とS3,S4とT3,S3の河岸から林内20mの地点で、アレック電子株式会社製のWin MDS-Mk V/Lを用い10分間隔で計測した。水面に投影される樹幹は、水温・クロロフィル量・水生生物に影響するとの考えから、河川水面に投影される樹幹投影面積をT4とS4の地点より上流に向かって50m間隔ごとに樹幹開空度を測定し、河川水面への投影面積を算出した。そして、3区間における被覆面積の平均値を算出した。一方、一次生産量として、付着性藻類を採取した。採取方法は、河川内の石を取り5cm四方に付着している付着性藻類をブラシで擦り採取した。クロロフィル量の分析は吸光光度計でおこなった。水生生物は50cm立方のコドラートを用いて採取し、同定した。クロロフィルと水生生物の採取日は、開葉期にあたる7/27__から__29,8/20・21・25と落葉期にあたる10/17__から__19,12/2__から__4の12日間とした。クロロフィルと水生生物の採取場所は、前述した3区間の投影箇所と非投影箇所である。また、河川全体のクロロフィル量と水生生物の種数は、3区間にて採取したクロロフィル量と水生生物の種数に投影面積もしくは非投影面積を乗じて求めた。水質測定は、河川ごとに設定した4地点にて採水した。採水は、クロロフィルと水生生物の採取日と同日の平水時におこなった。分析は、吸光光度計と液体クロマトグラフィーを用いて行った。4. 結果と考察水温と投影割合の関係を図__-__1に示した。Tの水温変化は、T1,T2間とT3,T4間で上昇しているが、T2,T3の間で低下している。水温低下を促した区間の投影割合は54%であった。一方、Sの水温変化は、途中区間で水温が低下することなく、S1からS4にかけて徐々に水温が上昇している。水温上昇が生じた区間の投影割合は31__から__33%であった。また、平均水温はTが12.2℃、Sが13.8℃であった。水生生物数はTで46586匹、Sで20804匹であり、TはSの2.2倍であった。また、採取した種類と区間別の採取数については両支流とも大きな差はみられなかった。水生生物数と河川の投影面積の関係については図__-__2に示した。投影箇所と非投影箇所にて採取した水生生物数は、いずれも投影割合が大きい程増加していた。しかし、投影割合が低下すると両箇所の水生生物数も減少していた。以上の結果から、広葉樹の多いTは水温の低下や水生生物が生息しやすい環境を形成していることがわかった。今後は、水温上昇の抑制を促す水辺林の規模を定量的に測定し、水辺域での森林伐採による水温上昇や、水生生物の減少を緩和する水辺林の規模を算出する必要がある。