著者
掛谷 亮太 瀧澤 英紀 小坂 泉 園原 和夏 石垣 逸朗 阿部 和時
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.299-307, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
13
被引用文献数
2 3

スギ間伐林分と未間伐林分において 11本のスギを対象に根系分布調査を行った。間伐,未間伐林分のスギともに根系材積は樹幹指数と良好な相関性を持つこと,間伐の実施如何にかかわらず立木本数密度と高い相関性があることが示された。また,根系分布調査結果から崩壊地底面と側面のすべり面に生育する根の量を算出したところ,間伐林分では林齢の増加に伴って根の量が増加しないことが示された。このことは,森林の崩壊防止機能がすべり面に生育する根によって発揮されるとの既往の考えと整合性が取れないことになる。このため,表層型崩壊が発生するような急斜面の表層土は,土質的に明瞭なすべり面が形成され難いことを考えて,崩壊発生時には表層土全体が歪み,亀裂が発生して崩壊に至ること,また表層土中で大量に生育している根系が歪や亀裂の発生を抑制することで崩壊防止機能を発揮していると仮定した。この仮定に基づいて表層土中の根系量を算出したところ,間伐林分では表層崩壊が多く発生しやすい 10~30年生にかけて根系量が未間伐林分よりも多いこと,また既往の研究成果と同じく林齢の増加に伴って崩壊防止機能が強くなることを裏付ける結果が得られた。
著者
伊藤 かおり 井上 公基 石垣 逸朗
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.214, 2003

1. はじめに 健全な森林や良質の木材を育成するためには、森林施業が不可欠である。また、林道を開設し森林施業を効率的に進める必要がある。しかし、林道開設にともなう伐採は、その周辺の水辺林の機能が損なわれている場合もある。また林業地帯では、河川の水際までスギ・ヒノキなどの針葉樹が植林され、水辺本来の植生が失われつつある。 水辺林の機能には、日射の遮断や倒木の供給、落葉・落下昆虫の供給、野生動物の生息環境の提供などがある。本研究では、林相の違いによる水辺林の機能を評価するために、広葉樹流域と針葉樹流域における、水温・水質・一次生産量・水生生物の種数を測定し、両者の比較検討を行った。2. 調査地概要 本調査地は、最上川支流である山形県村山市の樽石川の支流(T)と千座川の支流(S)を対象にした。Tの流域面積は141.5haであり、そのうちの97%が広葉樹林で占められている。渓畔域は、主にトチノキ・カツラ・モミジなどの樹種で構成され、それ以外はブナ林である。河川勾配は21.3%である。一方、Sの流域面積は79haであり、そのうち99%が針葉樹で占められており、河川の水際までスギが植林されている。河川勾配は6.7%である。3. 方法 T・Sの両支流にそれぞれ4ヶ所の測定地点を250m間隔毎に設置し、上流よりT1,T2,T3,T4とS1, S2,S3, S4とした。測定は2002年7月28日~12月3日の118日間行った。水温は、これら8地点で1時間間隔にエスペック社製のサーモレコーダーミニRT__-__30Sに記録した。また、日照はT3,T4とS3,S4とT3,S3の河岸から林内20mの地点で、アレック電子株式会社製のWin MDS-Mk V/Lを用い10分間隔で計測した。水面に投影される樹幹は、水温・クロロフィル量・水生生物に影響するとの考えから、河川水面に投影される樹幹投影面積をT4とS4の地点より上流に向かって50m間隔ごとに樹幹開空度を測定し、河川水面への投影面積を算出した。そして、3区間における被覆面積の平均値を算出した。一方、一次生産量として、付着性藻類を採取した。採取方法は、河川内の石を取り5cm四方に付着している付着性藻類をブラシで擦り採取した。クロロフィル量の分析は吸光光度計でおこなった。水生生物は50cm立方のコドラートを用いて採取し、同定した。クロロフィルと水生生物の採取日は、開葉期にあたる7/27__から__29,8/20・21・25と落葉期にあたる10/17__から__19,12/2__から__4の12日間とした。クロロフィルと水生生物の採取場所は、前述した3区間の投影箇所と非投影箇所である。また、河川全体のクロロフィル量と水生生物の種数は、3区間にて採取したクロロフィル量と水生生物の種数に投影面積もしくは非投影面積を乗じて求めた。水質測定は、河川ごとに設定した4地点にて採水した。採水は、クロロフィルと水生生物の採取日と同日の平水時におこなった。分析は、吸光光度計と液体クロマトグラフィーを用いて行った。4. 結果と考察水温と投影割合の関係を図__-__1に示した。Tの水温変化は、T1,T2間とT3,T4間で上昇しているが、T2,T3の間で低下している。水温低下を促した区間の投影割合は54%であった。一方、Sの水温変化は、途中区間で水温が低下することなく、S1からS4にかけて徐々に水温が上昇している。水温上昇が生じた区間の投影割合は31__から__33%であった。また、平均水温はTが12.2℃、Sが13.8℃であった。水生生物数はTで46586匹、Sで20804匹であり、TはSの2.2倍であった。また、採取した種類と区間別の採取数については両支流とも大きな差はみられなかった。水生生物数と河川の投影面積の関係については図__-__2に示した。投影箇所と非投影箇所にて採取した水生生物数は、いずれも投影割合が大きい程増加していた。しかし、投影割合が低下すると両箇所の水生生物数も減少していた。以上の結果から、広葉樹の多いTは水温の低下や水生生物が生息しやすい環境を形成していることがわかった。今後は、水温上昇の抑制を促す水辺林の規模を定量的に測定し、水辺域での森林伐採による水温上昇や、水生生物の減少を緩和する水辺林の規模を算出する必要がある。
著者
大河 和夏 増谷 利博 石垣 逸朗
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.211-219, 2006-12-31

神奈川県丹沢山地内の中津川流域(3,544ha)を対象とし,1947年にみられた崩壊地の残存傾向と地形要因の関係について数量化II類により解析した。崩壊地は1993年までに植生回復したものを回復型,1993年もなお残存しているものを残存型と分類した。また,地形因子には標高,斜面方位,傾斜,横断形状,傾斜変換点の5つを用いた。その結果,偏相関係数・レンジはともに標高>斜面方位>傾斜変換点>横断形状>傾斜の順となり,特に標高と斜面方位の影響が大きくなった。標高区分900m以上で残存傾向となり,標高が高い区分になるほどその傾向も強くなった。斜面方位は南,南東,西向き斜面に残存傾向がみられた。こうした高標高エリアの南と南東向き斜面は,凍結・融解作用により表土の移動が激しく崩壊地に侵入した植生が定着しにくいため,崩壊地の残存期聞か長期化したのではないかと考えられる。このようなエリアでは土壌保全を優先し,天然林を主とする森林管理が適当であると考えられる。