著者
芝本 武夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.261-269, 1943

(1) 河北省の臨楡縣北戴河に於ける花崗岩土壤・昌黍縣西關外新居に於ける〓岩土壤・〓縣馮家坎荘に於ける珪岩土壤・盧龍縣第一區第保五郷第49東菜園脇に於ける砂岩及び頁岩土壤の理化學的性質を明らかにし,夫等各土壤に生育せる造林木につき樹幹解析を行ひ其の生長状態を調べ,此の地方に於ける樹木の生長と土壤性質との關係を明らかにせんとした。<br> (2) 之等土壤の機械的組成は基岩の種類及び侵蝕等の關係により若干の差異が認められるが,多くは石礫及び粗砂並に細砂に比較的富み,微砂及び粘土の量は比較的少ない。(3) 腐植は著しく少く,從つて窒素も亦極端に缺乏してゐる。<br> (4) 粘土及び腐植の含量小なる爲,土壤は膠質性小にして,吸濕水分の量及び容水量共に小である。比重は腐植に乏しき爲比較的大である。<br> (5) 加里の含量は一般に大であるが,燐酸の含量は小なるものがある。即ち臨楡縣北戴河に於ける土壤は燐酸に乏しく,〓縣馮家坎荘に於ける土壤も亦比較的少ない。昌黎縣西關外新居に於ける土壤及燐酸含量最も大である。溶脱の程度の差によると考へられる。<br> (6) 土壤の反應は弱酸性乃至微アルカリ性である。<br> (7) 石灰含量は比較的小にして,一般に炭酸鹽としては存在しない。<br> (8) 之等土壤は非石灰質土壤で,アルカリ及びアルカリ土類溶脱せられ,殊に臨楡縣北戴河及び〓縣馮家坎荘の土壤に於て著しい。又土壤層全般に亙り燐酸が溶脱せられてゐる。即ち之等土壤は山東褐色土に屬するものと考へられる。<br> (9) 樹木の生育に對する關係から考察すれば,樹木の生長に對し制限因子として作用するものは水と窒素であると考へられ,窒素含量及び土壤の機械的組成が樹木の生長と最も密接な關係を示してゐる。尚時に燐酸が著しく過小なる場合がある様に考へられる。<br> (10) 之等土壤の肥培法としては先づ以て腐植の増加を圖り,土壤の膠質性を増大せしめることが肝要である。施肥の關係は其の後の問題である。<br> (11) 之等土壤が黄土に比し其の性質を異にする主要なる點は次の如くである。即ち機械的組成に於て之等は石礫・粗砂・細砂多く,微砂及ひ粘土少きに對し黄土では其の關係が逆であり,從て黄土に比し一層膠質性小である。燐酸及び加里の含量も比較的小である。更に又之等土壤の石灰含量は小で且つ炭酸鹽としては殆んど存在しないにも拘はらず,黄土では石灰含量著しく大で且つ炭酸鹽としても含有せられる。黄土は其の反應多くは微アルカリ性であるが,之等土壤には弱酸性を呈するものがある。

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