- 著者
-
真鍋 公希
- 出版者
- 日本映像学会
- 雑誌
- 映像学 (ISSN:02860279)
- 巻号頁・発行日
- vol.99, pp.25-45, 2018
<p>【要旨】</p><p> 円谷英二が特技監督を務めた『空の大怪獣ラドン』(1956 年、以下『ラドン』)は、公開当時から高く評価されている作品である。しかし、特撮映画に関する先行研究は『ゴジラ』(1954 年)ばかり注目してきたため、本作はほとんど分析されてこなかった。本稿では、トム・ガニングの「アトラクション」概念を補助線とし、本作の特異性と映画史的・文化史的意義を明らかにすることを試みる。「アトラクション」とは、物語を伝達する機能と対照的で、ショックや驚きなどの直接的刺激によって特徴づけられる性質だと紹介されてきた。しかし、『ラドン』における「アトラクション」的側面は、ショックによる直接的な態度よりもむしろ、特撮に注意を払う反省的な態度によって特徴づけられる。この態度はその後のオタク的な観客心理につながるものであり、この点で『ラドン』は、特撮映画をめぐる観客性の転換点に位置づけられる作品なのである。</p><p> これを示すために、第1 節では円谷の演出理念を検討する。円谷は特撮によって物語的な効果を引き出すことを第一に考えていたが、他方で特撮の痕跡が残ることを許容してもいた。ここに特撮が効果を逸脱し「アトラクション」として立ち現れる可能性を見ることができる。次に第2 節で、こうした円谷の演出理念が、『ラドン』ではどのように表出しているのかを考察する。円谷の演出理念は、ラドンが西海橋や福岡に現れる一連のシーンに色濃く反映しており、同時にこれらのシーンはテクスト全体の中でも自立的に機能している。最後に第3 節では、観客が『ラドン』の特撮に注意を払った反省的な態度で受容していたことを、当時広く普及していた「技術解説記事」を考察することで明らかにする。</p>