- 著者
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岩船 昌起
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2018, 2018
<b>【はじめに】</b>本発表では,気象庁が火山活動を24時間体制で監視している「常時観測火山」の一つである霧島山に注目し,観光の核心地の一つであるえびの高原での「災害危険区域」に相当する地区の設定の可能性と,観光と防災が両立できるための持続的な利用のあり方について検討する。<br><br><b>【調査地域】</b>霧島山は,大小20座以上の火山群の総称である。我が国最初の国立公園の一つとして1934年に指定された霧島国立公園の系譜を受け継ぐ霧島錦江湾国立公園の「霧島地域」と,その範囲がほぼ重なり,多くの観光客等が訪れる。えびの高原では,平成27年度で約70万人の観光客入込数を記録しており,えびの高原で自然散策,周辺の韓国岳や白鳥山等への登山,レストラン等の観光施設への立ち寄り等の利用行動が展開されている。<br><br>えびの高原に位置する硫黄山では,2016年12月6日14時から「噴火警戒レベル」が運用されている。噴火警戒レベルは,火山活動の状況に応じた「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」が事前に協議されて,5段階で整理された指標である。このうち,特に立ち入り規制範囲を設けない「レベル1(活火山であることに留意)」,硫黄山を中心に概ね1㎞圏内を立ち入り規制とする「レベル2(火口周辺警報)」,概ね2㎞圏内を規制する「レベル3(入山規制)」,概ね4㎞圏内を規制する「レベル4(避難準備)」,4㎞圏を越えて居住域の住民に避難勧告等を行う「レベル5(避難)」に分かれており,実際,硫黄山では,火山性地震の多発や火山ガスの発生等の火山活動が高まりに応じて,レベル1からレベル2の引き上げが2015年以降時折行われている。<br><br><b>【霧島山えびの高原でのホテル誘致計画】</b>環境省では「国立公園満喫プロジェクト」に取り組んでおり,霧島錦江湾国立公園は,その先導的モデルとなる8か所の国立公園のひとつに選定された。これを受けて,宮崎県では,えびの高原の「環境省所管地の旧えびの高原ホテル跡地」に上質な宿泊施設を誘致し,周辺地域を含めたエリア全体の魅力向上を図ることを目的とした事業者の公募を平成30年度中に実施することを予定している。<br><br><b>【「災害危険区域」の火山地域での適用の可能性】</b>「災害危険区域」は, 1950(昭和25)年に公布された建築基準法第39条の規定に基づき,地方公共団体が条例で指定した「津波,高潮,出水等による危険の著しい区域」であり,災害防止上の必要性から,その範囲内では「住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限」が行われる区域である。1945年枕崎台風,1946年昭和南海地震による津波,1947年カスリン台風等によって,低標高の居住地で甚大な被害を受けた経緯から,考案された「災害防止」のための手段の一つであろう。<br><br>一方,火山地域での防災対策の強化に関わり,1973(昭和48)年に「活動火山対策特別措置法」が施行され,これを改正する「活動火山対策特別措置法の一部を改正する法律」が2015(平成27)年12月10日施行されてきた。これによって火山周辺の居住地だけでなく登山者等も対象として,特に「常時観測火山」50火山を中心に活動火山対策の強化が一層進められている。しかしながら,火山は,元々人間の居住地から離れており,「災害危険区域」のように,災害防止のために「住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限」が行われる区域が設定されることはなかった。<br>ここ数十年で火山地質学や火山物理学等の成果が蓄積され,これに基づき,火山地域での災害ハザードが明瞭に示されてきた。これに基づき「噴火警戒レベル」の設定が行われており,基本的に同心円で示された「警戒が必要な範囲」で,より火口に近い場所ほど,災害リスクが高い場所である。これを「災害危険区域」と同じ発想で考えるのであれば,「警戒が必要な範囲」のより火口に近い場所には,火山活動が活発な状況下で人間の立ち入りが規制されることを考えると,住居に準じる宿泊施設等の恒常的な施設を建設することについては,より慎重に,相当の議論が必要であるだろう。