- 著者
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渡辺 隼矢
桐村 喬
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2018, 2018
<b>1.研究の背景と目的</b><br> 近年情報通信環境の発達により,人々が観光情報を入手する,または能動的に収集する手段はインターネットに移行しつつあり,それにより情報発信の担い手や情報伝達のスピードは大きく変化している.特に2010年代以降「インスタ映え」など写真投稿機能を有したソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下SNS)が注目されており,実際にSNSに投稿された写真をきっかけとして観光行動が変化した事例も全国各地でみられている.観光地における場所イメージや観光客の関心は観光地理学における重要なトピックの1つであるが,SNSに投稿された写真データを分析することで,これら場所イメージや関心の急速な変化を把握することが可能である.そこで本研究はSNSの写真付き投稿データから,観光客の観光地に対する関心やイメージの時系列変化を分析・考察することを目的とする.<br> 対象地域は兵庫県朝来市の竹田城跡およびその周辺地域とする.竹田城跡は2006年の「日本100名城」の登録により,徐々に観光対象として認識されるようになった,比較的新しい観光地である.またメディアを通して雲海に浮かび上がる竹田城跡の姿が話題となり,2012年9月以降に「天空の城ブーム」を引き起こしたが,2015年以降ブームは衰退傾向にある.<br><br><b>2.データ</b><br> 本研究で使用するデータは2012年2月から2017年2月までの間に携帯電話やスマートフォンなどの端末から発信されたTwitter投稿データのうち,竹田城跡やその眺望スポットである立雲峡,また訪問の拠点となるJR竹田駅周辺などを含む地域(以下竹田地区)の位置情報が付与されたもの,および本文中に写真投稿を示すURL(https://twitter.com/~/photo/1またはhttps:// www. instagram.com~)を含む投稿を抽出した.投稿したユーザーが観光客か,もしくは竹田地区内に居住するまたは業務等で定期的に訪れる長期滞在者かを識別する手法としては,田中ほか(2015)のようなユーザーの一連の位置情報付き投稿からユーザーの生活圏を算出する手法もあるが,本研究では,簡易的に投稿のあった日数から識別する手法を利用した.算出の結果,期間内に7日以上投稿がみられたユーザーについては,投稿内容から長期滞在者であることが推測できた.それらのユーザーを除いた1,779ユーザーによる3,021件の写真付き投稿を本研究の分析対象とした.<br><br><b>3.分析結果</b><br> 平均月別写真投稿数は2012年19.9枚から2013年46.7枚,2014年93.8枚と増加した一方,それ以降は2015年44.0枚,2016年45.5枚となっている.また撮影のあったユーザー数も同様の変化を示している.<br> インターネット上より各投稿につき単一の画像が識別可能な投稿について,その撮影対象や構図から写真を分類したところ,竹田城跡から城郭・城外の風景を撮影した写真が占める割合は2012年から2015年まで継続して減少傾向であった一方,立雲峡など城跡外から竹田城跡を撮影した写真が占める割合は2012年から2016年まで継続して増加傾向であった.また雲海が撮影された写真が占める割合は,「天空の城ブーム」の発展・衰退にも関わらずほぼ一定であった.