- 著者
-
伊藤 直之
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2018, 2018
1.研究の目的<br><br>シビックプライド(Civic Pride)とは,市民が都市や地域に対して持つ自負と愛着である。筆者らは,平成26年度より,科研費基盤研究(C)一般「異学問・学校・地域との協働によるシビックプライドを育む小学校社会科地域学習の開発」にもとづき,子どもから大人までが,市民として自らの故郷にプライドが持てるような教育を考えるプロジェクトを発足した。<br><br> 本研究では,教科教育学研究者(伊藤直之)と工学(田中尚人・熊本大)・経済学(戸田順一郎・佐賀大)の各研究者が連携し,子どもたちや地域住民との協働を通して,地域社会をよりよい場所にするために関わろうとするシビックプライドの涵養という観点から,とくに小学校社会科を例にして,新しいあり方について検討してきた。<br><br> <br><br>2.シビックプライド教育のあり方<br><br>このプロジェクトでは,各自の所属や問題関心によって意見が少し食い違うことがあるものの,次の①~③についてはおよそ共通理解が得られている。それは,①より良いまちづくりの仕方やあり方については参会者が自ら「考えてみる」ことに意義があるのであり,企画側(教える側)があらかじめ望ましい答えを用意すべきではないこと,②自分たちがより良いまちづくりに関与しているという「当事者意識」をくすぐること,③一人で考えることも大事だが,さまざまな人々との交流を「きっかけ」にすることがさらに大事であること,などである。<br><br>そして,従来の社会科教育や地理歴史教育における性急な態度形成に対する批判に学べば,愛着や愛情の育成は,急いではならないし,目に見えるような成果を期待してはならないということかもしれない。だからこそ,筆者らはシビックプライドを「育成」ではなく「醸成」すると表現するのである。<br><br> そして,そもそもシビックプライドは,一つの教科に過ぎない社会科だけで担い得る教育目標だろうか。その答えは,当然,否である。社会科に限らず,教科の教育だけで育まれるものでもない。学校教育だけで完結するものでもない。ここに,実社会との連携であったり,教育関係者に限らず,さまざまな分野の人々と協働する可能性が生まれてくる。<br><br> 筆者らは,教育目標としてのシビックプライドを,「市民が地域社会や環境に対して持つ自負や愛着,そして,それらをより良くする能動的な参加の精神」と定め,それを先述のような押しつけや誘導に陥ることなく,開かれた形で学んでいくスタイルの教育を「シビックプライド教育」と定義し,その起点を小学校に設定し,徳島県や熊本県,佐賀県において,さまざまな地域学習の構想と実践を試みている。<br><br> <br><br>3.シビックプライドを醸成する学習<br><br> 筆者らがこれまでに取り組んできたシビックプライドを醸成する学習は,おおむね次のように整理することができる。①フットパスコースの提案,②未来予想マップづくり,③地域の諸課題についての価値判断の3つである。<br> 本発表(ポスター)では,上述の学習について,具体的な様子を示しながら,その成果と課題について考察することにしたい。