- 著者
-
崎田 誠志郎
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2018, 2018
<b>1.目的</b><br><br> ギリシャはEUでも特に小規模沿岸漁業が盛んな国であるが,それゆえに,近年はローカルな小規模漁業の実態とナショナルスケール以上の施策との齟齬が問題となっている.本発表では,ギリシャにおける海洋保護区(Marine Protected Area,以下,MPA)を例に取り,漁業者をはじめとする関連主体がどのように内外の関係性を構築しているかについて,MPAおよび漁場利用の空間性に着目しながら予察的に検証する.<br><br><b>2.対象地域と調査手法</b><br><br> 調査対象地は,ギリシャ西部のイオニア諸島ザキントス県ザキントスとした.ザキントス島の南部にあたるラガナ湾は,アカウミガメ<i>Caretta caretta</i>の産卵地として重要な役割を担うことなどが評価され,1999年に湾内がMPAに指定された.湾内のMPAは複数のゾーンに分かれており(図1),湾東部のゾーンAのみ,5~10月の季節限定で禁漁区となる.その管理は,独立行政法人であるNational Marine Park of Zakynthos(以下,NMPZ)が中心となって実践されている.<br><br> ザキントスの漁業に関する正確な統計は得られていないが,ラガナ湾では主に延縄と刺網が営まれており,湾内の操業漁家数は専・兼業あわせて50世帯前後と見込まれる.漁業者組織としては,1970年代に結成されたFisherman's Unionが唯一のものである.<br><br> 現地調査では,2017年3月~4月にかけてラガナ湾沿岸のリムニ・ケリウおよびアギオス・ソスティスに滞在し,正規漁業者,地域住民,Fisherman's Union代表,NMPZ代表及び所属研究員らに聞取り調査を実施した.<br><br><b>3</b><b>.結果</b><br><br> ラガナ湾におけるMPAの設立・維持においては,一貫してNMPZが主導な役割を果たしてきた.また,近年注目を集める参加型MPAの実践として,2012年にはNMPZ,ザキントス漁業局,港湾警察,およびFisherman's Unionの代表からなるFishing Committeeが発足した.一連の取り組みでは,特にNMPZ職員の専門知識と仲介の努力がMPAの維持に貢献していた.<br> 一方で,伝統的に海域利用の主役であった漁業者は,ラガナ湾の利用と管理をめぐる近年の議論から後退しつつある.2017年現在,Fishing CommitteeではゾーンAの通年禁漁化について議論と交渉が始められており,少なくともFisherman's Unionの代表は全面禁漁化に同意する見込みである.これは合意形成の成功というよりも,ラガナ湾内における漁業規模の縮小が大きな要因として挙げられる.すなわち,全面禁漁化の実現は,必ずしもNMPZや他主体との協調性やMPAに対する漁業者の理解が高まったことを意味するものではない.近年はゾーンAの境界線近くに操業が集中する傾向(edge fishing)が生じており,全面禁漁化によってこの傾向が強化される可能性も否定できない.