著者
長野 壮一
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.126, no.12, pp.1-37, 2017

フランス革命後における中間団体をめぐる政治文化を考える際の基本概念に「団結」と「結社」がある。団結と結社は従来の研究において関連付けて論じられることが多かったが、両概念の連関は必ずしも自明ではない。なぜなら、そもそも刑法典において団結と結社はそれぞれ別の項目で記載されており、また団結と結社のいずれか片方にしか言及していない研究も散見されるためである。先行研究の多くが団結と結社を関連付けて論じた要因として、刑法典における団結禁止規定(第414~416条)の改正について論じる際に従来の研究が主として依拠した史料(立法院委員会による法案趣旨説明)において、結社権への言及が多く見られたという点が指摘できる。そこで本論文は、法案によって示された中間団体認識が同時代における言説体系の中でどのような位置付けにあったのかを解明するため、委員会による趣旨説明にとどまらず、法改正に関連する史料を網羅的に分析した。<br>その結果として明らかとなったのは次の事実である。法案審議の過程においては、公序の観点から家族的結社を推奨し団結権を否認する立場と、労働の自由の延長として結社権と団結権を肯定する立場が併存していた。しかしながら、最終的に成立した法案はいずれの立場とも完全には相容れず、結社は個々人の利害の集合である団結とは異なり団体としての利害を持つとする認識、並びに団結権は結社権に至る通過点であるとする認識からなる折衷的な立場を取った。法案は時代の趨勢に反し、立法者独自の中間団体認識に立脚していたのである。こうした立法者の戦略は団結権法認を成功へと導くには有効であったが、その一方で結社の法的立場は曖昧なまま残された。団結法改正の過程で示された中間団体認識はその後、第三共和政初期の社会政策において常に問い直される帰結となるだろう。

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