著者
小沢 浩 林 時仲 土畠 智幸 齋藤 大地 金田 実
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.29-33, 2017

Ⅰ.はじめに厚生労働省は、地域包括ケアシステムを提唱している。地域包括ケアシステムとは、30分でかけつけられる圏域を日常生活圏域と定義し、地域包括ケア実現のために、医療、介護、予防、住まい、生活支援という5つの視点での取り組みが包括的、継続的に行われることが必須であると説明している。またそのために①医療との連携強化、②介護サービスの充実強化、③予防の推進、④見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護など、⑤高齢期になっても住み続けることのできるバリアフリーの高齢者住まいの整備、が必要不可欠であると述べている。今後、リハビリテーションについても、訪問リハビリテーションや、学校および通所施設など、病院以外のリハビリテーションがますます重要になってくるだろう。北海道は、広大であるため、障害児が地域に点在していることも多く、その中でさまざまな工夫を凝らして療育を担ってきた。日本は、高齢化社会を迎え、特に地域において、人口の減少、障害児の地域の点在化が進んでいくであろう。そのため、北海道モデルからわれわれが学ぶことは多く、新たなモデルを構築していかなければいけない。そのために、必要なのは、ライフステージを見据えた長期的視点による生活へのアプローチであり、多職種との連携の中でのリハビリテーションの役割を担っていくことであろう。以上の視点より、北海道の先進的な取り組みを紹介する。Ⅱ.北海道療育園における在宅支援北海道療育園 林 時仲遠隔過疎地域を背景にもつ北海道療育園(以下、当園)の在宅支援とその課題、解決策について報告した。当園は北海道旭川市にある医療型障害児入所施設・療養介護事業所で、入所336床、短期入所6床の入所支援のほか、通園事業所、訪問看護ステーションを併設している。主な担任地域は北海道北部、北・中空知および北オホーツクで、東京の8.5倍の面積に人口約65万人、163人の在宅重症児者が居住している。近年、在宅で療養する重症心身障害児者(以下、重症児者)と在宅で医療行為を行わなければならない「医療的ケア児」が増加している。この3年間で在宅重症児者(半数は要医療的ケア)は旭川市内で26人、全道で約200人増加した。遠隔過疎地は社会資源が少なく、在宅重症児者や医療的ケア児とその家族を支える調整役が不足し仕組みが十分に機能していないために彼らは多くの問題を抱えながら生活している。たとえば、短期入所を利用したくても地域に重症児者や医療的ケア児を受入れている事業所がないため、利用者によっては250km離れた北海道療育園まで車で移動しなければならない。緊急時には車が確保できなかったり、冬期間は吹雪で道路が閉鎖されるといった困難を抱える。地域の基幹病院は福祉サービスである短期入所を受託していない。当園ではこれらの問題に対し以下の支援を実施している。1.直接的支援:目に見える形で提供する支援サービスとして、①短期入所、②通所支援、③訪問リハビリテーション、④訪問看護、⑤日常生活補助具や姿勢保持具の製作と提供、⑥相談支援、⑦巡回療育相談、⑧外来療育等指導事業、⑨テレビ電話相談、⑩小児慢性特定疾病相談室の運営等を行っている。短期入所は空床利用型6床で年間400件、延べ2000日を受けているが、利用申請の2割は満床等当園の理由でお断りしている。また、入所支援と在宅支援を同一病棟、同一スタッフで実施することの難しさを実感している。短期入所枠の増床は物理的に困難であり、新規棟の建設が望まれる。小児慢性特定疾病相談室は平成27 年1月より中核市である旭川市から小児慢性特定疾病児童等自立支援事業の委託を受けて開設した。小児慢性特定疾病児童(重症児や医療的ケア児が重複する)を対象に自立支援員による相談支援やソーシャルワークが行われ、医療と福祉の橋渡しになっている。2.間接的支援:医療機関や福祉サービス事業所が重症児者や医療的ケア児の受け皿となってもらえるよう支援事業に取り組んでいる(資源の再資源化)。①職員研修(実習見学会、交換研修等)、②当園職員を派遣しての研修(出前研修、保育所等訪問支援事業、医療的ケア支援事業、子ども発達支援事業等)、③テレビ電話による遠隔支援等である。市立稚内病院小児科では当園で研修した看護師が中心となり、親の付き添いの要らない重症児の入院が始まった。道北のある就労支援b型事業所は出前研修後に生活介護事業所を併設し地域の重症児者の受け皿になっている。思いはあっても踏み出すことが難しい医療機関や事業所の背中を押して、一緒にやろうという姿勢が重要である。重症児者のための協議会を立ち上げて課題解決や相談支援等に当たっている。この協議会は周辺自治体に働きかけて重症児者のための協議会立ち上げを支援している。将来の仲間作りのために医学生や福祉科学生の実習を受け入れている。地域住民や首長に重症児者に対する理解がなければ在宅支援が進まないことから啓蒙活動にも力を入れている。課題と解決策:①北海道においては、地域の基幹病院など医療機関の医療型短期入所事業への参入が求められる。これには自治体による福祉サービス料と医業収益との差額補償や空床補償、国による報酬単価引き上げ等の対策が必要である。②当園のような重症児者施設における在宅支援が不十分である。当園では、家族の要望があるにもかかわらず、重症児者外来や訪問診療を始められておらず、短期入所や通園事業枠も長年増やすことが出来ていない。重症児者施設のさらなる取り組みが求められる。③厚労省のモデル事業により標準的な療育を学ぶためにテキストが整備されたが、研修を担う人材が不足している。これには協会認定重症心身障害看護師の活躍が期待される。④協議会の運営や研修活動が継続した活動となるためにはこれを国や自治体の事業とし、財政基盤を確保する必要がある。国は、人材育成や市町村・広域のバックアップ、スーパーバイズ機能を持たせた地域の中核となる支援センターを設置して支援体制の構築を進める都道府県等に補助を行っているが(重症心身障害児者支援体制整備モデル事業)、現時点で受諾は大阪府のみであり拡充が必要である。⑤調整役(相談支援専門員、自立支援員)の増員と地位向上、および「つなぎ先(受け皿)」の充足に最優先で取り組む必要がある。(以降はPDFを参照ください)

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