- 著者
-
佐野 誠
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2019, 2019
近年、人口減少や高齢化に伴い高齢者の移動について問題になっている。「高齢者生活意識調査」(2014)によれば、高齢者の13%が「外出時」に困難を感じているとされる。特に大都市郊外では、免許保有率が低く買い物や通院をするためには公共交通機関を用いる必要性がある。<br><br>横浜市をはじめとする東京大都市圏郊外では、起伏の激しい地形を切り開き開発がすすめられた地域が多く、高齢化の進展とともに行動に関する問題が顕在化しており、適正な行政の負担による公共交通空白地の解消が課題となっている。<br><br>地域住民にとって移動コストの軽減をいかに図るかが、高齢化の進む地域における公共交通導入に向けた取り組みに結びついていると考えられる。<br><br>横浜市では2007年度末までに人口の88.4%が駅まで15分以内に到達できるようになったとされるものの、それ以降においてもバス路線の開設や改善を求める地域が存在している。そこで本研究では、横浜市の政策が転換した2007年時点の交通空白地分析を行い、交通問題を抱える地域を把握する。このことから、地方部とは異なる都市部の交通問題を明らかにすることを目的とする。<br><br>また、これら空白地域を含め地域交通が導入された地域において、どのような経緯で導入されたのか、またどのような主体によって開設されたのかについて明らかにする。<br><br>まず、交通空白地を選定するにあたり、GISを用いて交通不便地域を選定する。既存の交通空白地帯の研究ではバス停または駅からの直線距離を用いられているが、実際に歩行することを考慮し、総務省統計局が公開している「地図で見る統計」とフリーGISソフト「QGIS」を活用し、道路線データを用いたネットワーク分析を行う。徒歩で到達できるエリア(4㎞/hとし、駅から1㎞=15分、バス停から500m≒8分)に含まれない地域に居住する人口を、250mメッシュデータを用いて分析する。人口のメッシュデータは総務省統計局、駅とバス停情報は国土数値情報で公開されているものを用いる。また、明らかになった地域において路線バスなどの導入状況を、事業者やバスマップ、新聞記事や聞き取り調査などから明らかにする。<br><br><br>既存の方法では横浜市域の人口集中地域において、ほぼ交通不便地域は解消されているものと考えられていたが、金沢区や瀬谷区、緑区、旭区などにおいて線路や崖線によってアクセスが困難な地域が明らかになった。<br><br>これらの地域においては事業者による路線開設のほかにも、横浜市の「地域交通サポート事業」を受けて路線を開設したケースも見受けられた。<br><br>開設が確認できた地域のうち、調査が可能であった地域について導入経緯を調査した結果、地域住民からの要望を自治会・町内会がとりまとめ行政・事業者へ要望をしたことが明らかになった。中には、地域が誘致したもの利用がつかず、廃止議論が出てから利用が活性化するケースもあり、地域による議論の盛り上がりが路線開設に重要な役割があるものと考えられる。