著者
藤村 健一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

百舌鳥・古市古墳群は大阪府堺市・藤井寺市・羽曳野市に位置する。2017年、これに含まれる45件49基の古墳が文化審議会によって世界文化遺産の推薦候補に選ばれた。早ければ2019年にも正式に登録される可能性がある。<br> 推薦候補に選ばれた古墳には、仁徳、履中、反正、応神、仲哀、允恭の各天皇陵古墳が含まれる。このうち、堺市の仁徳天皇陵古墳は国内最大、羽曳野市の応神天皇陵古墳は国内2番目の規模の古墳である。天皇陵は皇室祭祀の場所であり、現在でも宮内庁が管理している。<br> 発表者は2016年、京都の拝観寺院(観光寺院)の意味や性格について報告した。これらの寺院に対しては、主に宗教空間、観光施設、文化財(文化遺産)という3種類の意味が付与されている。これらは互いに異なる立場から意味づけられており、対立する可能性をはらむ。1980年代の古都税紛争は、このことが一因であったと考えられる。<br> 天皇陵古墳に対しても、様々な立場から異なる意味づけがなされ、そのことが摩擦を生んでいる。本研究では百舌鳥・古市古墳群の天皇陵古墳を事例として、そこに付与された様々な意味を整理・分析するとともに、意味づけを行っている人々についても調査し、摩擦の要因を解明する。<br> 百舌鳥・古市古墳群の天皇陵古墳に付与された意味は、①聖域、②文化財、③観光地・観光資源、④世界文化遺産の4つに集約できる。①の見方をとるのは主に宮内庁と皇室、神道界の人々や、皇室崇敬者・皇陵巡拝者である。②の見方をとるのは、主に古墳を研究する歴史(考古)学者である。③は地元の経済界や観光業者・観光客を中心とした見方である。④は、主に世界遺産登録運動の推進役である地元自治体や文化庁の見方である。<br> ①~④の意味には重複する部分もあるが、これらは一致しておらず齟齬もある。とりわけ、①の見方をとる立場と②の見方をとる立場の間では対立が顕著である。天皇陵古墳を②とみなす歴史学者は、宮内庁を批判してきた。<br> ①の立場をとるのは宮内庁・皇室関係者だけでない。神道界や皇室崇敬者、皇陵巡拝者には、天皇や皇室に対する尊崇の念をもって天皇陵を聖域視する人々が少なくない。<br> こうした人々の中には、天皇陵古墳をもっぱら文化財とみなす歴史学界や、世界遺産登録を推進する行政、観光資源としての利用を図る業者を非難する人もいる。ただし、現代の皇陵巡拝者は必ずしも皇室崇敬者に限らない。彼らは「陵印」収集など多様な動機をもって巡拝している。

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