著者
藤村 健一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.369-386, 2005-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
35
被引用文献数
1

本稿では,福井県嶺北地方の3集落における寺院・道場を事例として,施設が形成され,位置づけられ,逆に施設がそれをめぐる社会集団に影響を与える相互関係を動態的に分析する.寺院・道場と社会集団との相互関係は,以下の構図を示す.まず,社会集団により寺院・道場の形成や位置づけが行われ,形成された寺院・道場の存在が,社会集団の紐帯を強化する.これにより,寺院・道場と社会集団とが相互に支えあう関係の枠組が半ば固定化される.ところが,世俗化などの集落内外の変化や動向によって,寺院・道場を支える社会集団に変化が生じると,再編成された社会集団により再度,寺院・道場の形成や位置づけがなされる.さらに,こうした寺院・道場の存在が社会集団の紐帯を強化する.このような共通の構図の枠内で,主に施設の制度的な位置づけやそれを支える社会集団の性格の違いによって,3集落の寺院・道場と社会集団との相互関係に差異が生じている.
著者
藤村 健一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.199-218, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
28

本稿では,上海における仏教の観光寺院5カ寺の調査結果に基づいて,中国の観光寺院の空間構造や性格,拝観の特徴を考察する.中国仏教には,寺院の建物配置の基本的なパターンが存在する.中心市街地に近く境内が狭い寺院でも,そのパターンに近づくよう工夫している.一般に,観光寺院には宗教空間・観光施設・文化財(文化遺産)という3つの性格がある.中国の場合,日本の観光寺院と比べて,宗教空間としての性格は濃厚である.多くの拝観者が仏像に対して叩頭の拝礼を行っている.また境内には,位牌を祀る殿堂を備えていることが多い.観光施設としての性格ももつが,むしろ観光にとどまらず多様な手段で収益をあげる商業施設としての性格をもつ.一方,文化財としての性格は日本と比べて希薄である.
著者
藤村 健一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.146, 2019 (Released:2019-03-30)

百舌鳥・古市古墳群は大阪府堺市・藤井寺市・羽曳野市に位置する。2017年、これに含まれる45件49基の古墳が文化審議会によって世界文化遺産の推薦候補に選ばれた。早ければ2019年にも正式に登録される可能性がある。 推薦候補に選ばれた古墳には、仁徳、履中、反正、応神、仲哀、允恭の各天皇陵古墳が含まれる。このうち、堺市の仁徳天皇陵古墳は国内最大、羽曳野市の応神天皇陵古墳は国内2番目の規模の古墳である。天皇陵は皇室祭祀の場所であり、現在でも宮内庁が管理している。 発表者は2016年、京都の拝観寺院(観光寺院)の意味や性格について報告した。これらの寺院に対しては、主に宗教空間、観光施設、文化財(文化遺産)という3種類の意味が付与されている。これらは互いに異なる立場から意味づけられており、対立する可能性をはらむ。1980年代の古都税紛争は、このことが一因であったと考えられる。 天皇陵古墳に対しても、様々な立場から異なる意味づけがなされ、そのことが摩擦を生んでいる。本研究では百舌鳥・古市古墳群の天皇陵古墳を事例として、そこに付与された様々な意味を整理・分析するとともに、意味づけを行っている人々についても調査し、摩擦の要因を解明する。 百舌鳥・古市古墳群の天皇陵古墳に付与された意味は、①聖域、②文化財、③観光地・観光資源、④世界文化遺産の4つに集約できる。①の見方をとるのは主に宮内庁と皇室、神道界の人々や、皇室崇敬者・皇陵巡拝者である。②の見方をとるのは、主に古墳を研究する歴史(考古)学者である。③は地元の経済界や観光業者・観光客を中心とした見方である。④は、主に世界遺産登録運動の推進役である地元自治体や文化庁の見方である。 ①~④の意味には重複する部分もあるが、これらは一致しておらず齟齬もある。とりわけ、①の見方をとる立場と②の見方をとる立場の間では対立が顕著である。天皇陵古墳を②とみなす歴史学者は、宮内庁を批判してきた。 ①の立場をとるのは宮内庁・皇室関係者だけでない。神道界や皇室崇敬者、皇陵巡拝者には、天皇や皇室に対する尊崇の念をもって天皇陵を聖域視する人々が少なくない。 こうした人々の中には、天皇陵古墳をもっぱら文化財とみなす歴史学界や、世界遺産登録を推進する行政、観光資源としての利用を図る業者を非難する人もいる。ただし、現代の皇陵巡拝者は必ずしも皇室崇敬者に限らない。彼らは「陵印」収集など多様な動機をもって巡拝している。
著者
藤村 健一
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨 2006年 人文地理学会大会
巻号頁・発行日
pp.16, 2006 (Released:2007-03-01)

京都をはじめとした国内の多くの観光地では,著名な仏教寺院が重要な観光資源となっている。こうした「観光寺院」は,現代の日本人にとって馴染み深いものであるにもかかわらず,人文地理学や観光学,宗教学では等閑視されてきた。そこで本発表では,観光寺院に付与された意味について予察的に考察する。第一に,現在の観光寺院に付与された意味が,主として「観光地」・「宗教空間」・「文化遺産」の3概念に集約できると仮定する。そして, 3概念の関係を既往研究に基づいて整理することにより,観光寺院の意味の構図を仮説的に提示する。第二に,この構図に基づき,観光寺院の意味をめぐる主体間の対立を,京都の文化観光施設税(文観税)・古都保存協力税(古都税)の紛争を事例として分析する。 上述の3概念のうち,観光とは一種の娯楽の販売・消費であり,観光地はそのための場所であるのに対して,宗教の目的は一般に利潤追求と相容れないとされており,宗教空間としての寺院は,観光地であることと潜在的に矛盾する。また,文化遺産ことに文化財に関しては行政が保護を担当するが,行政による宗教空間の保護は,潜在的には政教分離原則に抵触する恐れがある。このように,「宗教空間」-「観光地」,「宗教空間」-「文化遺産」の関係は対立の可能性を孕む。一方,「観光地」-「文化遺産」の間には相対的に親和性が認められる。確かに,観光客による文化財の毀損は跡を絶たないが,文化財は極力一般に公開されるべきものとされており,所有者である仏教教団でも拝観を制限することは稀である。また,寺院への観光は主に文化観光の一環として行われているため,観光寺院には文化遺産であることが求められる。 文観税・古都税紛争では,寺院に「文化観光財」・「文化財」という意味を付与し,その「観賞」行為への課税を試みる京都市側に対して,教団側は寺院や「拝観」行為の仏教的意味を強調し,課税を政教分離原則の違反と見なした。これは,「宗教空間」-「観光地」,「宗教空間」-「文化遺産」の対立の顕在化として理解できる。
著者
藤村 健一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

百舌鳥・古市古墳群は大阪府堺市・藤井寺市・羽曳野市に位置する。2017年、これに含まれる45件49基の古墳が文化審議会によって世界文化遺産の推薦候補に選ばれた。早ければ2019年にも正式に登録される可能性がある。<br> 推薦候補に選ばれた古墳には、仁徳、履中、反正、応神、仲哀、允恭の各天皇陵古墳が含まれる。このうち、堺市の仁徳天皇陵古墳は国内最大、羽曳野市の応神天皇陵古墳は国内2番目の規模の古墳である。天皇陵は皇室祭祀の場所であり、現在でも宮内庁が管理している。<br> 発表者は2016年、京都の拝観寺院(観光寺院)の意味や性格について報告した。これらの寺院に対しては、主に宗教空間、観光施設、文化財(文化遺産)という3種類の意味が付与されている。これらは互いに異なる立場から意味づけられており、対立する可能性をはらむ。1980年代の古都税紛争は、このことが一因であったと考えられる。<br> 天皇陵古墳に対しても、様々な立場から異なる意味づけがなされ、そのことが摩擦を生んでいる。本研究では百舌鳥・古市古墳群の天皇陵古墳を事例として、そこに付与された様々な意味を整理・分析するとともに、意味づけを行っている人々についても調査し、摩擦の要因を解明する。<br> 百舌鳥・古市古墳群の天皇陵古墳に付与された意味は、①聖域、②文化財、③観光地・観光資源、④世界文化遺産の4つに集約できる。①の見方をとるのは主に宮内庁と皇室、神道界の人々や、皇室崇敬者・皇陵巡拝者である。②の見方をとるのは、主に古墳を研究する歴史(考古)学者である。③は地元の経済界や観光業者・観光客を中心とした見方である。④は、主に世界遺産登録運動の推進役である地元自治体や文化庁の見方である。<br> ①~④の意味には重複する部分もあるが、これらは一致しておらず齟齬もある。とりわけ、①の見方をとる立場と②の見方をとる立場の間では対立が顕著である。天皇陵古墳を②とみなす歴史学者は、宮内庁を批判してきた。<br> ①の立場をとるのは宮内庁・皇室関係者だけでない。神道界や皇室崇敬者、皇陵巡拝者には、天皇や皇室に対する尊崇の念をもって天皇陵を聖域視する人々が少なくない。<br> こうした人々の中には、天皇陵古墳をもっぱら文化財とみなす歴史学界や、世界遺産登録を推進する行政、観光資源としての利用を図る業者を非難する人もいる。ただし、現代の皇陵巡拝者は必ずしも皇室崇敬者に限らない。彼らは「陵印」収集など多様な動機をもって巡拝している。
著者
藤村 健一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.199-218, 2016

<p>本稿では,上海における仏教の観光寺院5カ寺の調査結果に基づいて,中国の観光寺院の空間構造や性格,拝観の特徴を考察する.中国仏教には,寺院の建物配置の基本的なパターンが存在する.中心市街地に近く境内が狭い寺院でも,そのパターンに近づくよう工夫している.一般に,観光寺院には宗教空間・観光施設・文化財(文化遺産)という3つの性格がある.中国の場合,日本の観光寺院と比べて,宗教空間としての性格は濃厚である.多くの拝観者が仏像に対して叩頭の拝礼を行っている.また境内には,位牌を祀る殿堂を備えていることが多い.観光施設としての性格ももつが,むしろ観光にとどまらず多様な手段で収益をあげる商業施設としての性格をもつ.一方,文化財としての性格は日本と比べて希薄である.</p>