- 著者
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小玉 安恵
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.2, pp.18-33, 2019
<p>本稿では,山口(2009)により日本語の引用で最も重要かつ基本的選択とされる引用助詞ッテとト及び無助詞の機能を明らかにすべく,44の芸能人の体験談をLabov (1972)のナラティブ分析の時間的節構造とThompson & Hunston (2000)の評価の枠組みを用い量的かつ質的に分析した.量的分析では,杉浦(2007)のッテを発話引用専用とする説と,山口のッテを対立的,トを中立的とする説に加え,トをフォーマル,ッテをインフォーマルとする従来の説を検証した.結果,一人称ナラティブではッテと無助詞が発話引用に,トが思考引用に使用される傾向が最も顕著であることが判明した.次に,その例外である思考引用のッテと無助詞,発話引用のトを含んだ場面の質的分析を行ったところ,思考でも知覚したことに対し継起的に語られる即時的反応にはッテが,状況的に相手に言えない登場人物「私」の思考には無助詞の裸の引用が,語りの導入部と事件の発端となる発話や一連の会話の区切りには発話でもトが使われることから,本稿ではッテが登場人物「私」の物語世界で知覚感知した引用を,無助詞が物語世界の引用当事者視点からの引用を,トが語り手の今の視点から語られた引用であることを示す標識であると主張する.</p>