著者
小玉 安恵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.114-128, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
24

日本語の時制研究において,現在形で過去の出来事を表す,通称歴史的現在形(HP)は,小説など書き言葉を中心に様々な機能が検証され,英語のHPとは違った機能を持つとされてきた。近年では口語データでも研究が進められ,過去形は語りの世界の語り手の視点を,HPは物語世界の登場人物の視点を表す,という視点説が有力である。しかし,その二分的な視点説も,なぜ語り手は視点を変えるのかという問題や,HPの機能の多様性を説明しきれていない。 本稿では44の体験談を,Labov(1972)の口語ナラティブ分析の枠組みを使って質的かつ量的に分析した結果,日本語のHPは,1)話の骨格を成すナラティブ節だけでなく,背景的な節にも現れる,2)物語世界の視点を表すが,だれの視点かは指定しない,3)統御不可能な知覚経験か登場人物の移動に誘発されて使用され,それにより評価機能やテキスト機能などの異なった機能を持つことが分かった。
著者
小玉 安恵
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.178-193, 2020-09-30 (Released:2020-10-07)
参考文献数
37

従来の日本語の体験談研究では,否定(Yamada, 2000),(ソシ)タラ(加藤,2003),歴史的現在形(小玉,2011)など,話をより効果的なものにするための内在的評価装置の使用が,個別的にあるいはナラティブの一部分にフォーカスして取り上げられ分析されてきた.本稿では,日本語の体験談が本当に面白い話になるために,まずどのようなタイプの評価がどこでどの様に組み合わされて使用されているのか,ナラティブ全体として総合的に明らかにすべく,テレビのトーク番組で語られた芸能人の体験談をLabov (1972, 1997)のナラティブ構造と評価という概念を見直し,Longacre (1981)のナラティブ構造分析の枠組みを加えた上で,質的に分析した.その結果,芸能人の面白い体験談では語りをより面白く,効果的なものにするために1)話のクライマックスや重要な結末となる出来事及び周辺の出来事への意外性や臨場性を強調する様々なタイプの内在的評価装置の集中的使用や,2)外在的評価やオリエンテーション情報の挿入による聞き手に対する話の解釈の誘導及び登場人物のイメージや内言と実際の発話の明確な落差の生成,3)評価的行動や発話及び内言の詳述によるクライマックスや結末の延期ないしはピークの延長に加え,4)落ちとなるクライマックスや結末の短縮化など様々な評価が駆使されていることがわかった.
著者
小玉 安恵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.169, pp.93-108, 2018 (Released:2020-04-26)
参考文献数
8

近年のグローバル化に伴い,国を越え就職する学生が増えている中,カルフォニア州立大学サンノゼ校では学生の異文化間能力を育成するため,二つの国のクラスを毎週70分間オンラインでつなぎ,日米の学生達が協働で学習するCOILという新しい教授法に基づいた実践型の日本文化の授業を実施している。本稿ではまずCOILという新しい教授法を紹介し,次に本稿の理論的枠組みであり,授業内容や活動の決定の際参考にしたBennett (2004) のDevelopmental Model of Intercultural Sensitivity, Vulpe et.al (2001) による異文化間で効果的に働ける人物像のプロファイル研究,及びWillingham (2007) の批判的思考を紹介する。そして,最後に学生の気づきや批判的思考の促進,相対的視点の育成及び世界観の変容を目的とした異文化間協働型のクラス活動やリサーチプロジェクトの実践報告を行う。
著者
小玉 安恵
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.18-33, 2019

<p>本稿では,山口(2009)により日本語の引用で最も重要かつ基本的選択とされる引用助詞ッテとト及び無助詞の機能を明らかにすべく,44の芸能人の体験談をLabov (1972)のナラティブ分析の時間的節構造とThompson & Hunston (2000)の評価の枠組みを用い量的かつ質的に分析した.量的分析では,杉浦(2007)のッテを発話引用専用とする説と,山口のッテを対立的,トを中立的とする説に加え,トをフォーマル,ッテをインフォーマルとする従来の説を検証した.結果,一人称ナラティブではッテと無助詞が発話引用に,トが思考引用に使用される傾向が最も顕著であることが判明した.次に,その例外である思考引用のッテと無助詞,発話引用のトを含んだ場面の質的分析を行ったところ,思考でも知覚したことに対し継起的に語られる即時的反応にはッテが,状況的に相手に言えない登場人物「私」の思考には無助詞の裸の引用が,語りの導入部と事件の発端となる発話や一連の会話の区切りには発話でもトが使われることから,本稿ではッテが登場人物「私」の物語世界で知覚感知した引用を,無助詞が物語世界の引用当事者視点からの引用を,トが語り手の今の視点から語られた引用であることを示す標識であると主張する.</p>