著者
加藤 毅
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.61-79, 2010

<p> 大学を取り巻く経営環境の悪化や,求められる経営の質の高度化・複雑化を受けて,大学職員に対する期待や要求が高まりつつある.断絶的ともいえる大きな改革を実現するための有効な手段となることが期待されるSD に関して,過去十数年間の間にさまざまな議論が蓄積されてきた.そこで展開されるSD 論は,意欲ある大学職員を励まし,時には理論的支柱となり,あるいは旺盛な学習意欲を受け止めるという重要な機能を果たしてきた.同時に,SD の必要性に関する社会的認知も高まり,SD 論に対して,個別性の高い具体の問題状況に応えることが求められるようになりつつある.</p><p> ところが現実には,現時点においてSD は,大学経営の効率化や高度化という目的を達成するための,可能性を有する手段の一つに過ぎない.そのため,本来であればSD の有効性に関する説得的な議論や,質の高い職員を効率的に養成するためのSD の在り方の解明がすすめられるべきところ,「権威主義的な考え方」のもとで,SD 論はこういった課題への取り組みをほとんど行ってきていない.最近になってようやく,大学院教育を含む研修全般について,業務実績と結びつけることの重要性が認知されるようになり,そのための方策が模索されはじめた.</p><p> 他方,これからのSD の在り方を考える上で必須と考えられる現状の理解水準についても,十分とはいえない.例えば,大学経営の現場では,従来型業務の効率化や高度化は依然として大きな課題として残されており,これに加えて,問題発見や課題解決などの業務に対応するための新たな取り組みが求められつつある.正反対の性質を持った2つの要求の板挟みにあい,大学職員は引き裂かれつつある.この重要な動向についても,従来のSD 論ではほとんど理解されていない.</p><p> このような問題状況の中で,本研究では,我が国において実践されている先進的な研修の試みについて,インテンシブな調査および分析を行った.その結果,業務と研修が一体化することにより,業務の効率化と高度化が同時に実現するとともに,担当者に求められる新しい実務能力も着実に向上する,という,SD における新たな構図(OJD<sup>2</sup>)の可能性を見いだした.そしてこの構図の延長上に,先進的な大学の現場で,業務プロセス全体が研修プログラムとして機能するというスタイルのマネジメントがすでに展開されていることを発見した.</p>

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