著者
大森 不二雄
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.9-30, 2014

<p> 本稿は,大学教育改革の鍵概念となっている「教学マネジメント」及び「内部質保証」に関し,大学経営と質保証の両面で先行した英国の政策と実態に関する分析・考察から,日本にとっての含意を得ることを目的としている.</p><p> 大学教育に関する日本の政策言説は,全学的な教学マネジメントや大学ガバナンスの内部質保証にとっての有効性に,素朴なまでに信を置いている.しかし,英国の大学における教学マネジメントを含む内部質保証システムの整備の考察からは,経営機能の強化は,質保証の実質化の必要条件であっても,十分条件ではない可能性が示唆される.また,質保証の取組がコンプライアンスにとどまり,教授・学習過程にインパクトをもたらすに至っていない,との批判的分析は,質保証の一筋縄ではいかない複雑性と困難を表す.</p>
著者
吉田 文
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.71-93, 2005

<p> 本稿は,アメリカの学士課程カリキュラムの構造と機能を,日本との比較の視点で検討することを目的とする.アメリカでは,先行するliberaleducation に専門教育が導入されたという歴史的な経緯があるために,学士課程教育の理念はliberal education に,実態は専門教育に傾斜という関係が,組織構造上の矛盾として存在し,その延長上でカリキュラム改革は繰り返されてきた.日本にあるもの・ないもの,アメリカにあるもの・ないものという2軸で日米を比較すると,両者ともカリキュラムの編成形態は類似しているが,日本にはアメリカのliberal education の理念はなく,アメリカには一般教育と専門教育の教員組織を別にしていたという日本の形態はなく,編成されたカリキュラムの背後にあるものが異なっていることが明らかになった.</p>
著者
吉田 文
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.11-37, 2018

<p> 学生の多様化という問題が,どのように認識されどのように論じられたか,1960年代と2000年代の日本を対象に,各種の審議会の答申をもとに,イギリスとの対比で検討した.日本では,学生のメリトクラティックな選抜という観点が強く,高等教育の拡大は,能力のない学生の増加とみなされ,学生層の多様化に関しては否定的な見解が主流である.他方で,イギリスでは,1960年代以来,高等教育の拡大は,不利な背景をもつ学生層への教育の機会の提供として捉えられ,それの実現に向けての施策がとられてきた.こうした差異が生じる理由は,議論の前提としての社会的公正という理念の受容,教育拡大を社会的効用と関連して考える観点,教育拡大の結果を示す高等教育研究の蓄積によるといってよいだろう.</p>
著者
加藤 毅
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.61-79, 2010

<p> 大学を取り巻く経営環境の悪化や,求められる経営の質の高度化・複雑化を受けて,大学職員に対する期待や要求が高まりつつある.断絶的ともいえる大きな改革を実現するための有効な手段となることが期待されるSD に関して,過去十数年間の間にさまざまな議論が蓄積されてきた.そこで展開されるSD 論は,意欲ある大学職員を励まし,時には理論的支柱となり,あるいは旺盛な学習意欲を受け止めるという重要な機能を果たしてきた.同時に,SD の必要性に関する社会的認知も高まり,SD 論に対して,個別性の高い具体の問題状況に応えることが求められるようになりつつある.</p><p> ところが現実には,現時点においてSD は,大学経営の効率化や高度化という目的を達成するための,可能性を有する手段の一つに過ぎない.そのため,本来であればSD の有効性に関する説得的な議論や,質の高い職員を効率的に養成するためのSD の在り方の解明がすすめられるべきところ,「権威主義的な考え方」のもとで,SD 論はこういった課題への取り組みをほとんど行ってきていない.最近になってようやく,大学院教育を含む研修全般について,業務実績と結びつけることの重要性が認知されるようになり,そのための方策が模索されはじめた.</p><p> 他方,これからのSD の在り方を考える上で必須と考えられる現状の理解水準についても,十分とはいえない.例えば,大学経営の現場では,従来型業務の効率化や高度化は依然として大きな課題として残されており,これに加えて,問題発見や課題解決などの業務に対応するための新たな取り組みが求められつつある.正反対の性質を持った2つの要求の板挟みにあい,大学職員は引き裂かれつつある.この重要な動向についても,従来のSD 論ではほとんど理解されていない.</p><p> このような問題状況の中で,本研究では,我が国において実践されている先進的な研修の試みについて,インテンシブな調査および分析を行った.その結果,業務と研修が一体化することにより,業務の効率化と高度化が同時に実現するとともに,担当者に求められる新しい実務能力も着実に向上する,という,SD における新たな構図(OJD<sup>2</sup>)の可能性を見いだした.そしてこの構図の延長上に,先進的な大学の現場で,業務プロセス全体が研修プログラムとして機能するというスタイルのマネジメントがすでに展開されていることを発見した.</p>
著者
小方 直幸
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.171-190, 2015

<p> 本稿は,2012年から2013年にかけ策定された,国立大学改革プランを取り上げ,教員養成分野のミッションの再定義に着目することで,現代における政府と大学の自治の関係を,以下の3つの視点から問い直すことを目的としている.第1は,文科省と政府との関係で,文科省が,なぜ教員養成分野の改革に本腰を入れる必要に迫られたか,まずは概観する.第2は,文科省と教員養成大学・学部との関係で,事例考察を通して,政府と大学の自治を考察する上で鍵となる,両者の具体的やり取りを明らかにする.第3は,高等教育局内部の関係で,所掌の異なるアクターの改革行動を析出し,それが実際の改革に及ぼす影響について考察する.</p>
著者
吉田 香奈
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.161-179, 2012

<p> 本稿では,アメリカ連邦政府が実施する学生ローンの延滞・債務不履行問題を検討し,その抑制策の特徴として以下の点を指摘した.すなわち,(1)債務不履行者の多い大学に対し連邦学生支援の利用資格を停止・剥奪するペナルティを実施していること,(2)破産者への学生ローン返還免責の禁止等,日本にはない厳しい回収制度が存在すること,(3)段階型・延長型・所得連動型返還といった返還方法の多様化が図られていること,である.これらの取り組みにより債務不履行率は大幅に減少しており,一定の成果が得られている.ただし,(3)については「返したくても返せない者」をより一層困難な状況に追い込んでおり,セーフティネットの面からみて問題視されている.以上を踏まえ,最後に日本への示唆として3点を述べた.</p><p></p>
著者
木村 拓也 西郡 大 山田 礼子
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.189-214, 2009

<p> 本研究は,国際的に通用する「学士」水準の維持・向上が求められて行く中で必要とされる「大学教育効果」の測定方法論について検討したものである.本研究では,サンプルサイズ,多量の質問項目,従属変数にまつわる追跡調査と大学生調査が孕む構造的問題について,潜在クラス分析を用いることでその解決を試みた.まず,大学入学前後の状況を表した「高大接続情報」を用いて,潜在クラス分析を行い,5つの学生群にクラス分けした上で,学生の各クラスへの帰属確率を求めた.次に,因子分析によって,多量の質問項目をカテゴリー化して因子得点を求め,各学生群の帰属確率との間でノンパラメトリック回帰分析を行った.こうした分析方法により,各大学が学生の特徴に応じた「学士課程教育の構築」に資する基礎情報を過誤なく獲得する可能性を提示することができた.</p>
著者
大山 篤之 小原 一仁 西原 理
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.249-270, 2011

<p> 本稿の研究は,次の手順で行われたものである.全国公私立大学を対象とする大学格付けに基づき,全大学を群化し,別途構築する志願者数推移シミュレーションモデルを用いて各大学群に対して全入時代到来確率を算出する.これにより,各大学群に属する大学の一覧及びそれぞれの大学群に与えられる全入時代到来までの猶予期間が明示される.結果として,これが,大学経営ならびにそれを支援する組織にとっても,経営政策の意思決定を行う上で,非常に有効な情報となり得ることを示唆する.</p>
著者
阿部 和厚
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.71-92, 2004
被引用文献数
1

<p> Recent developments in health sciences, medical practice and technology, requires further development of medical professionals, such as medical doctors, dental doctors, pharmacists, nurses, occupational therapists, physical therapists, speech therapists, clinical technologists, radiological technologists, social workers, psychotherapists and others. These professionals have requested highly advanced higher education.</p><p> While the numbers of universities for medical and dental doctors have been limited over the last three decades, institutions offering four year courses for nurses have increased from a few, to approximately 100 in the last decade, mainly by transition from three to four year courses. Institutions offering four year courses for other co-medical professionals have also been similarly increasing.</p><p> The acceleration of educational reforms into medical and dental universities offering six year courses is required following the report of a Ministry of Education and Sciences' committee in 2001. The report requires new core curriculum aimed to develop clinical ability to international standards during higher education. The reforms include:</p><p> ・Early clinical exposure in the freshman years;</p><p> ・The development of problem based learning activities within the curricula from basic medical sciences, clinical application to clinical diagnosis and therapy;</p><p> ・Learning attitudes and various diagnostic techniques in clinics and the practice of objective structured clinical examination (OSCE); and</p><p> ・Role play to develop an understanding of clinical relationships with patients.</p><p> The curricula for co-medical professionals, other than that for medical and dental professionals, is underdeveloped with regard to working together with other medical staffs, including doctors, in a clinical team, and the understanding of the clinical relationship with patients.</p>
著者
塚原 修一
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.151-163, 2007

<p> 日本の現在の大学改革は,トロウのいうエリート型からユニバーサル型へと,2段階にちかい大幅な変革を行うものである.大学改革に関する和書の刊行が急増していて,日本は大学改革の時代にある.本学会の会員には,改革の中核人材として活躍している者が多いと推察される.本学会の大会発表は,大学改革の構成要素をとりあげるものが多かった.そのなかから,大学評価(個別大学の評価,高等教育システムの評価),科学技術政策と大学(研究開発活動,高度人材養成),政策過程とその変容(高等教育から職業への移行,他府県など外部との関係,政策過程分析の展開)をとりあげ研究動向と課題を整理した.今後,本学会が政策にとくに貢献する活動として,高等教育に関する包括的な調査研究と,府省などにまたがる課題の調査研究があることを述べた.</p>
著者
中村 高康
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.47-61, 2011

<p> 「高大接続」といえば通常は「教育接続」であるが,高校生の視点から見れば「地域」の観点も接続問題にからんでくる重要なトピックとなりうる.そのことを示すために,本稿では,高校生を対象とするインタビュー・データを用いて,まず最初に,現代の進路多様校の高校生たちには「狭小ローカリズム」が作動していることを示す.続いて,このインタビュー結果を裏付ける量的データを示す.最後に,構造方程式モデルを用いて進学とローカリズムの因果の方向性を検討する.以上の結果から,大学進学率の上昇は若者たちのローカリズムを変容させる可能性があり,「教育接続」の議論の背後で進行するこうした社会変容の可能性を意識しておくことも重要であることを示す.</p>