- 著者
-
髙野 剛史
田中 颯
狩野 泰則
- 出版者
- 日本貝類学会
- 雑誌
- Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
- 巻号頁・発行日
- vol.77, no.1, pp.45-50, 2019
<p>ハナゴウナ科Eulimidaeの腹足類は,棘皮動物を宿主とする寄生者である。同科の<i>Mucronalia</i>属は形態および生態情報に乏しいグループで,タイプ種のフタオビツマミガイ<i>M. bicincta</i>は生貝での採集報告がなされていない。Warén(1980a)による殻形態に基づく属の概念では,つまみ状の原殻,内唇滑層,ならびに中央部の突出した外唇を有することが重要視されている。また2既知種がクモヒトデ寄生性であることが知られており,これが本属貝類に共通の生態とみなされている。本報では,神奈川県真鶴町の潮下帯より採取されたアカクモヒトデ<i>Ophiomastix mixta</i>の腕に外部寄生する<i>Mucronalia</i>属の1新種を記載した。</p><p><i>Mucronalia alba</i> n. sp.オビナシツマミガイ(新種・新称)</p><p>原殻がつまみ状に突出すること,殻口内唇に滑層を有すること,また外唇は中央部が突出し横からみると大きく曲がることから,<i>Mucronalia</i>属の一種であると判断された。殻は本属としては細く塔型,最大5.5 mm,白色半透明である。後成殻は6.6巻,螺層は時に非対称に膨れ,螺塔は成長に伴い不規則に太くなる。外唇縁痕は不定期に現れ,僅かに褐色を呈する。殻口は細長い卵型。軸唇はまっすぐで,体層の軸から20°傾く。原殻は淡い褐色。</p><p>本種の殻形は,同じく日本に産するヤセフタオビツマミガイ<i>M. exilis</i>と,オーストラリアのクイーンズランドから記載された<i>M. trilineata</i>に似る。一方これら2種は殻に褐色の色帯を有し,また軸唇の傾きが弱い。オマーンをタイプ産地とする<i>M. lepida</i>と<i>M. oxytenes</i>,メキシコ西岸の<i>M. involuta</i>はいずれも本種と同様白色の殻をもつが,前2種は殻が太く螺層の膨らみが弱い点で,また<i>M. involuta</i>は本種と比してはるかに小型である点で区別される。タイプ種であるフタオビツマミガイ<i>M. bicincta</i>,オマーンに産する<i>M. bizonula</i>,スリランカの<i>M. exquisita</i>は,色帯のある円筒形の殻をもつ点で本種と明瞭に異なる。</p><p>上述の種のほか,コガタツマミガイ"<i>M.</i>" <i>subula</i>やヒモイカリナマコツマミガイ"<i>M. lactea</i>"が<i>Mucronalia</i>属として扱われることがある。しかしながら,前者は殻口外唇が湾曲せず,カシパンヤドリニナ属<i>Hypermastus</i>に含めるのが妥当である。後者は,殻形態,寄生生態および予察的な分子系統解析(髙野,未発表)により,セトモノガイ属<i>Melanella</i>の一種であると考えられた。しかしながら,<i>Eulima lactea</i> A. Adams in Sowerby II, 1854が同じ<i>Melanella</i>に所属すると考えられるため,ヒモイカリナマコツマミガイに対する<i>lactea</i> A. Adams, 1864は主観新参ホモニムとなる。そこで,ヒモイカリナマコツマミガイに対する代替名として<i>Melanella tanabensis</i>を提唱した。東アフリカのザンジバル諸島産で,同じくヒモイカリナマコに内部寄生する"<i>Mucronalia</i>" <i>variabilis</i>もセトモノガイ属に含めるのが妥当と考えられ,本論文で属位を変更した(<i>Melanella variabilis</i> n. comb.)。</p>