- 著者
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岩船 昌起
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2019, 2019
<p><b>【はじめに】</b><b> </b>2019年7月に南九州では,「記録的な大雨」で「がけ崩れ」が多発した。筆者は,住民の避難行動等を現在検証中であり,本稿では,「がけ崩れ」等にかかわる基本的な情報を整理する。</p><p><b>【降水量等の概要】</b>気象庁の降水量データから,後述の2災害現場に最寄りの3観測所では,九州に停滞した梅雨前線との関係で6月26から7月4日に断続的に雨が降り続いていた。日降水量は,6月28日には鹿児島76.5㎜,八重山163㎜,輝北60㎜,7月1日には鹿児島121㎜,八重山327㎜,輝北248.5㎜であり,西南西―東北東に延びる線状降水帯が鹿児島と熊本との県境付近に停滞していたことと関連して,6月28日と7月1日の大雨時には県北部での降水量が相対的に多かった。一方,7月3日には,鹿児島368㎜,八重山206㎜,輝北402㎜であり,薩摩半島や大隅半島で降水量が多かった。</p><p><b>【</b><b>6</b><b>月</b><b>28</b><b>日概要】</b>未明から雨が降り始めて早朝からその強度が高くなった。鹿児島県・鹿児島地方気象台(以下,県・気象台)では,6:50に県土砂災害警戒情報第1号を,7:25に同第2号を共同発表して,土砂災害への警戒を強めた。また,気象台も「県薩摩地方の早期注意情報(警報級の可能性)」を7:00に発表した。これらに応じて,鹿児島市(以下,市)では,7:30に災害警戒本部を設置し,土砂災害への警戒から7:40に「【市内全域(喜入地域を除く)】大雨に係る避難勧告」を,浸水への警戒から同7:40に「【新川・稲荷川流域】避難勧告」を発令した。また,8:30には市内83カ所に避難所を開設している旨を市公式HP上に掲載した。一方,気象台は,「鹿児島市[継続]大雨(土砂災害、浸水害),洪水警報」を8:56に発表した。しかし,人命にかかわる被害が生じることなく,10時過ぎに大雨の恐れがなくなり,県・気象台は10:50に県土砂災害警戒情報第3号を共同発表し,「全警戒解除」を鹿児島市,薩摩川内市,日置市,いちき串木野市,姶良市,さつま町に伝えた。また,気象台は11:20に鹿児島市等に「大雨警報(土砂災害)」を継続しつつも,警報から引き下げる形で「洪水注意報」を発表した。市では「大雨警報(土砂災害)」の継続を受け,土砂災害への警戒から,市南部の喜入を除く市全域に避難勧告を発令し続けた。</p><p><b>【</b><b>7</b><b>月</b><b>1</b><b>日概要】</b>県・気象台では,1:45に県土砂災害警戒情報第1号が鹿児島市に対して発表された。これを受け,市では2:40に市北部「吉田,郡山,吉野,一色,中央,松元」各地区に土砂災害に対する警戒から「避難勧告(警戒レベル4)」を,市中部「桜島,谷山」各地区に「避難準備・高齢者等避難開始(警戒レベル3)」を発令した。前日30日から降雨がほぼ連続し,八重山で5時に時間雨量67.5㎜が記録される等,降雨強度が1日未明から早朝に高くなった。このため,7時過ぎに,比高約40~60mの斜面上部で幅約30mにわたりがけ崩れが生じ,家屋に入り込んだ土砂に70代女性が巻き込まれた。救出搬送されたものの,病院で死亡が確認された。この斜面は,土砂災害警戒区域に指定されており,斜面下部から中部では補強されていたが,斜面上部には"手当て"が及んでいなかった。線状降水帯の南下による「猛烈な大雨」に伴い,市では警戒を強めて7:45に「喜入を除く市内全域」に土砂災害への警戒から「避難勧告(警戒レベル4)」を,喜入地区に「避難準備・高齢者等避難開始」を同7:45に発令した。</p><p><b>【</b><b>7</b><b>月</b><b>3</b><b>日概要】</b>前日2日の気象庁の会見等もあり,「特別警報クラスの大雨」への警戒を強めた。9:35に「市内全域」に「避難指示(警戒レベル4)」を発令し,特に「崖や河川に近い場所など,危険な地域」の居住者の避難を強く意識した。降雨強度は3日未明から4日未明までが高く,大雨警報(土砂災害)の危険度分布が3日19:10には市全域が「極めて危険【警戒レベル4相当】(濃い紫)」に判定される等,薩摩半島と大隅半島で土砂災害の危険性が高まった。曽於市大隅町坂元で80代女性1名が犠牲になった「がけ崩れ」は3日夕方から4日未明までに発生したと思われ,検証中である。がけ崩れが生じた斜面は,土砂災害危険区域に未指定の箇所であり,被災家屋横の車道造成時に掘削したのり面で,比高0~20m弱,幅約20mである。10m間隔の等高線では表現できない小規模の急傾斜地であった。</p><p><b>【おわりに】</b>7月3日9:35の鹿児島市全域への避難指示は,前年2018年7月7日に桜島古里で80代男女2名が犠牲となった土砂災害を顧みての判断であった。崩落土砂が入り込んだ自宅の住民が今回事前に避難する等,避難において一定の効果があったと筆者は考える。発表当日には,避難指示の発令や避難所運営のあり方,住民の避難行動等にも触れる予定である。</p>